過剰な摂取エネルギーが中性脂肪として肝臓に蓄積する病態を非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)といい,その罹患率は世界的に増加している。NAFLDの中で単純性脂肪肝は一般的に予後良好とされるが,非アルコール性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)は炎症や線維化を特徴とし,ときに肝硬変や肝癌に進展しうる重症型と考えられる。近年,内臓脂肪型肥満を中心として発症するメタボリックシンドロームの基盤病態として「慢性炎症」が注目されている。慢性炎症では急性炎症の主徴である発熱,発赤,腫脹などを認めないが,慢性的なストレスにより実質細胞と間質細胞の相互作用が遷延化し,臓器を構成する細胞の種類や数がダイナミックに変化する「組織リモデリング」に至る。特に,肥満脂肪組織の慢性炎症が脂肪組織機能を障害し,遊離脂肪酸やアディポサイトカインをメディエーターとする臓器間ネットワークを介して,全身臓器に慢性炎症が拡大すると考えられる1)。NAFLD/NASHはメタボリックシンドロームの肝臓における表現型といわれ,脂肪組織機能の影響を大きく受けるとともに,解剖学的にも多数の免疫細胞が存在する臓器であることから,慢性炎症が病態形成に深く関わっていると考えられるが,その分子機構にはいまだ不明な点も多い。本稿では,メタボリックシンドロームの基盤病態とされる慢性炎症に注目し,脂肪組織と肝臓を中心に最近の知見を交えてNASHの発症メカニズムを概説する。