はじめに  修飾インスリン(インスリンアナログ)とは,ヒトインスリンのアミノ酸配列の一部に修飾を加えることにより,インスリンとほぼ同等の生理活性を有しながら薬物動態が改変された医薬品である。すなわちアスパルトはB鎖28位のプロリンをアスパラギン酸に,リスプロはB鎖28位,29位のプロリンとリジンをそれぞれリジンとプロリンに,グルリジンはB鎖3位のアスパラギン・B鎖29位のリジンをそれぞれリジン・グルタミン酸に置換したものであり,グラルギンはA鎖21位のアスパラギンをグリシンに置換した上,B鎖C末端に2個のアルギニンを追加したもの,デテミルはB鎖30位スレオニンを削除し,29位のリジンにミリスチン酸の側鎖を付加したものである。こうした修飾により超速効性や持効性などヒトインスリンにはない薬物動態の特性が得られ,より良好なコントロールが達成できる可能性や注射タイミングの面での利便性から臨床で頻用されるようになった。インスリングラルギンは修飾インスリンの1つで約24時間にわたる長い作用時間と明らかな作用ピークをもたない特性より,基礎分泌の補充に適している。経口血糖降下薬へグラルギンを追加するインスリン療法は,Basal Supported Oral Therapyとしてわが国においても広く行われるようになった。  2009年6月『Diabetologia』誌電子版に,このグラルギン使用と癌の発生に関する4件の後ろ向きコホート研究と1件のランダム化比較試験のサブ解析が発表され,大きな議論となった。  本稿ではこれらの解析結果を中心に,修飾インスリンと癌に関する最近の知見を概説する。