文学にみる病いと老い
第82回 「クマが山を越えてきた」アリス・マンロー
掲載誌
Pharma Medica
Vol.32 No.8 120-125,
2014
著者名
長井 苑子
/
泉 孝英
記事体裁
抄録
疾患領域
神経疾患
診療科目
一般内科
/
神経内科
/
老年科
/
精神科
媒体
Pharma Medica
83歳の夫と75歳の妻で, 老々介護の日々を送っている知人がいる. 75歳の妻は, 元気な頃は母のところに毎週一回は通って話し相手になってくださっていた. 70歳を過ぎた頃から, 手作りのカレーの色が白っぽくなり, 味が大変うすくなったことがあった. 次第に, 忘れ物が多くなり, ふらつきや頭痛が起こってきて, 一人で外出することができなくなってきた. ちょうど, その頃に, ご主人が突然, 歩行困難になられて脊髄の病気がみつかり, 大手術を受けられた. この年齢と, この病気では, おそらくは再起不可能であり, 認知症を病む妻の面倒は誰がみるのだろう. もしかすると, この夫婦はとてつもなく不幸になっていくのではないかと, ひそかに案じていた. しかし, 一年以上のリハビリを熱心にうけて, 83歳の夫は杖歩行で歩くことができるようになった. 一年数ヵ月が過ぎると, 夫は, よろける妻をかばいながらも, 夫婦で私の勤務する診療所の神経内科の外来を受診できるようになった.
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。