超高齢多死社会における
かかりつけ医の役割

急速に進む少子超高齢化や、それに伴う多死社会の到来を見据えて、国は医療、介護、住まい、予防、生活支援を包括的に提供する地域包括ケアシステムの構築を進めています。病院中心の医療から地域全体で支える医療へと転換が進むなか、地域医療の充実は欠かせず、地域医療の担い手であるかかりつけ医にはより幅広い役割が期待されています。医療や介護が必要な状態となってもできる限り住み慣れた地域で生活を続けられるよう、そして尊厳ある終末期を支えるために、かかりつけ医にはどのような機能が求められ、どのように患者に向き合っていくべきなのでしょうか。
世界医師会の前会長で日本医師会会長の横倉義武先生に、わが国の地域医療の現状や課題とともに、地域医療の再興に向けた道筋についてお話を伺いました。

かかりつけ医を中心とした“まちづくり”

横倉 義武 先生

先生は初めて日本医師会会長になられた2012年から、地域医療の再興を一貫して掲げてこられました。

私は2018年6月の代議員会で選出され、4期目の会長職を務めることになったのですが、そのときに前期に引き続き次の3つの基本方針、①かかりつけ医を中心としたまちづくり、②医療政策をリードし続ける組織づくり、③人材育成の視点に立った人づくり、を掲げました。
医療が受けられない地域にはなかなか人が住めません。体調が悪いときに相談できる医療機関は必ず要るわけですから、地域医療を支え、高齢になっても安心して継続的な医療・介護を受けられるまちづくりを行っていく必要があります。そのためにも、組織を強くしていかないと医療現場の声を国民の皆さんに理解してもらえないので、医療政策を現場目線でリードし続けるような組織づくりを行っていくことも重要と考えています。そして、医療の在り方が急速に変わりつつあるなか、将来の医療に対応できる人材育成を行っていくことも急務です。この3点を目標に掲げて、地域医療の再興に取り組んでいます。

現在の日本の地域医療における問題点については、どのようにお考えでしょうか。

やはり地域によって医療資源の差が大きいので、その均てん化をいかに図っていくかが一つの課題だと思います。大都市部は医療資源は充足しているものの診療科が偏在していますし、地方では医療施設だけではなく、さまざまな医療専門職の偏在も激しいのが現状です。均てん化というのは、必要な医療を地域で受けられるようにということですが、なかでも初期(一次)医療については、自分の住んでいる地域で受けられるようにしていかなければならないと思っています。

地域資源は地域によって異なりますが、資源が十分ではない地域ではどのように問題に対応していくと良いのでしょうか。

地域包括ケアシステムの構築は“まちづくり”でもあり、これからの地域医療を支えるには、地域の医師会、かかりつけ医を中心としたまちづくりを進めていく必要があると考えています。とりわけ医師や医療資源が少なく高齢化が進む地域では、地域密着型の医療体制を整備していく必要があります。地域包括ケアシステムを機能させていくには、行政や多職種との連携、予防活動、慢性期における介護との連携、急変時の対応などが不可欠です。これらを担う地域の医師会、そしてかかりつけ医には、地域の医療・福祉・介護関係者間の取りまとめをはじめ、地域全体をリードするという大きな役割が期待されます。そこで、日医では初の試みとして、2018年11月に全国の都道府県医師会、郡市区等医師会の会長に集まってもらい、全国医師会・医師連盟医療政策研究大会を開催しました。国民の視点に立った医療を実現するという理念の共有を目的に、今後も開催していきたいと思います。

横倉 義武 先生

かかりつけ医に求められる6つの機能

先生は、かかりつけ医の重要性を訴え、その機能の定着に力を注がれてきました。

日本医師会では、かかりつけ医に求められる機能として、継続的な医療の提供や在宅医療の実践などを含めた6つの機能を定めています。日本では大学病院や地域の中核的な病院で専門診療科の教育を受けた上で、地域で開業されている医師が多いかと思いますが、そうした先生方に改めて「かかりつけ医の心」をしっかり学んでいただこうと、日本医師会では、かかりつけ医機能の評価や能力の維持・向上を目的とした研修制度「日医かかりつけ医機能研修制度」の取り組みを2016年から始めました。これまでに毎年約1万人の先生方に受講していただいています。これからも継続的に実施し、その数を増やしていきたいと思います。

「かかりつけ医の心」とは、具体的にどのような心持ちが必要だとお考えですか。

患者さんや自分が診ている人たちに寄り添う気持ちが不可欠だと思います。医師の仕事というのは、生命を守るというのが一番にありますし、健康を守るということも大切な責務です。そのためには、患者さんや家族の気持ちに寄り添うという、一人ひとりの患者さんの心を大事にした医療を実践していくことが必要です。

かかりつけ医は、在宅医療の担い手としても期待されています。

やはり病院よりも住み慣れた地域や自宅で療養したいと希望される患者さんは多いので、そうしたニーズに応えるためにも、在宅医療の受け皿を整備していくことが重要だと考えています。既に日本は超高齢社会といわれているわけですが、高齢化が進めば進むほど在宅医療の重要性は増してきます。在宅医療は外来診療の延長上にあるものです。これまで外来診療で診ていた患者さんが通院できなくなったら、かかりつけ医が患者さんの自宅に出向くのは、かかりつけ医の機能として自然なことです。先ほどの研修制度には在宅医療の実践についても盛り込んでおり、医師会としても在宅医療への取り組みを強化しているところです。

在宅医療の普及が進むなか、今後は在宅で亡くなる方も増えると予想されます。しかし、在宅で看取りまでとなると、介護者もかかりつけ医も負担が大きくなるかと思いますが、いかがでしょうか。

すべて在宅でとなると、なかなか難しいところがあるかと思います。それを取り巻く家族の負担感も大きすぎるかもしれません。最期は在宅で何とかして頑張ろうと思っている家族も、最期の時が近づくと不安になって病院にお願いをするということもあります。ですから、在宅がすべてではなく、地域にかかりつけ医の先生がいて、何かあったときは入院施設を持った病院や有床診療所がバックアップできる仕組みや、一人ひとりの患者さんや家族に合わせた方法を選択できるような仕組みをつくっていく必要があると思います。

そうした地域医療連携を支える仕組みの一つとして、いわゆる「二人主治医制」の試みがあります。

急性期や回復期を担う医療機関や介護療養型医療施設の医師と在宅医療を担う地域のかかりつけ医との連携、あるいは地域のかかりつけ医が複数で患者さんの様態や経過に応じて連携しながら、共同で継続的な医療を提供しようというものです。
私は若い時にドイツの病院に2年間勤めたことがあります。ドイツでは、開業医が地域の患者さんたちの一次医療を担っているのですが、6月ごろから夏休みの予定と代診医の連絡先が新聞に告知されます。ドイツでは皆1カ月ほど夏休みを取るのですが、開業医もしっかり夏休みを取り、リフレッシュしてまた仕事ができるという仕組みができているのです。日本の開業医の先生方にも、そういう時間を何とかつくってほしいと思っています。そうした観点からも、自分に何かあるときは別の医師にお願いできる病診・診診連携における二人主治医制の仕組みは非常に有効だと思います。

横倉 義武 先生

かかりつけ医に期待される終末期の意思決定支援

終末期医療の質という観点からも、かかりつけ医が果たす役割は大きいですね。

非常に重要な役割です。死は本人の問題であり、それを取り巻く家族の問題でもあります。ある一定の寿命が来たら、本人が望む苦しみのない安らかで尊厳のある死、自分らしい終末を迎えられるような仕組みをつくっていく必要があります。それと同時に、それを見送る家族が納得できる終末を迎えてもらうことも大事なことだと思います。
本人が望む最期といっても、安楽死あるいは医師のほう助による自殺とは異なります。これらの積極的な安楽死を法的に認めている国も一部にありますが、日本の場合は、厚生労働省が2018年に改訂した『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』のほか、関係学会がガイドライン等で終末期医療の在り方を示しています。
例えばアメリカには「カルフォルニアの長女」、日本には「東京の長男」という言葉があるのですが、日ごろは地方に住んでいる子どもが親の面倒を見ていますが、死の間際になると遠方に住む親族がやってきて、「なぜもっと濃厚な治療をしなかったのか」と介護者や医療スタッフを責めることがあります。実際、そのような場面によく直面します。しかし、最も大切なことは、本人が望む最期を迎えることです。そのためにも、国民の皆さんには自分が終末をどう迎えたいか、そして延命治療を望むかどうかについて、事前に意思表示をしていただくことが重要になります。医師はまず命を助けるのが第一義ですから、積極的な治療をするかどうか判断に迷うときがあります。しかしながら、死を目の前にした患者さんに対して人工呼吸器を使わないというような判断も、医師であればしていくべきだと思います。
日本医師会の生命倫理懇談会(座長:髙久史麿氏)が取りまとめた答申「超高齢社会と終末期医療」では、本人の意思を随時確認できる仕組みとして、医療・介護の多職種が、繰り返し終末期医療の在り方について患者・家族と相談するアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)の重要性や、意思決定支援において、かかりつけ医が担うべき役割の大きさが指摘されています(参考記事)。
日本医師会では、この答申を踏まえ「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」というパンフレットを作成し、普及・啓発を図っています。かかりつけ医の先生方には、普段の診療のなかで終末期医療やケアへの希望を聞いていただいたり、ACPやリビングウィルについて折に触れて話をしていただくことが非常に重要だと思います。それと同時に、患者さんが高齢化し、自分の意思をどう残したらよいのかと聞かれたときに、しっかり答えられるように準備をしていただくことも重要になっていくと思います。

横倉 義武 先生

後編に続く

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