Withコロナ時代に求められる花粉症治療
~花粉症は今や社会的疾患に~

2020年の年初から世界的に広がった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、多くの診療科で感染予防を踏まえた新たな診療形態が模索されています。これから流行時期を迎える花粉症治療を担う耳鼻咽喉科においても、その診療の形が変わりつつあります。COVID-19は、その重複する症状の多さなどから花粉症との鑑別が不可欠であり、嗅覚障害や味覚障害などの後遺症に対するケアへのニーズも高まっています。今回は、withコロナ時代における花粉症診療の現状や課題について、日本医科大学大学院医学研究科頭頸部感覚器科学分野教授の大久保公裕先生に伺いました。

コロナ禍においても
重症患者の受診者数に変化なし

大久保公裕先生

大久保公裕先生

コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行から2年近く経ちました。その間、花粉症患者の受診動向にはどのような変化がみられましたか。

COVID-19の感染拡大により普段からマスクを着ける人が増えたこともあり、来院する花粉症患者は減少しました。診療所では受診控えの傾向がみられたようですが、これは診療所を受診するのは比較的症状が軽い軽症者が多いためと考えられます。一方、重症者を主に診ている大学病院では受診者数に変化はみられませんでした。また、免疫療法の患者数にも変化はみられませんでした。

COVID-19の感染拡大に伴い、耳鼻咽喉科における花粉症診療の場にはどのような影響がありましたか。

耳鼻咽喉科にはくしゃみや咳、喉の痛みなどの症状を訴える患者さんが受診しますし、COVID-19以外の感染症も扱います。そういった患者さんの鼻腔内を診察する際には、患者さんにマスクを外してもらう必要があり、それにより感染機会が増えることから、今まで以上に安全に配慮した診療が求められています。特に、くしゃみ、鼻かみ、飛沫感染への対策と注意が必要です。ですから、診療の現場では防護具やN95マスクなどの基本的なフルPPE (personal protective equipment) での感染対策を行った上で、頻繁に換気を行うなど、「うつらない」「うつさない」ことを徹底するようになりました。

花粉症患者に対する患者指導にも変化はありますか。

患者さんには、いかに他人に感染させないか、また他人から感染させられないか、ということに配慮する必要があることをお伝えするようにしています。具体的には、人前であまり鼻をかまないことといった指導をしています。これはマナーでもありますが、感染対策として、例えばトイレの個室のように周囲に人がいない環境で行うようにと伝えています。また、アルコールスプレーなどで鼻かみの前後に除菌することを勧めています。

鼻かみの前にも手指消毒をすすめるのですか?

鼻をかむ行為をするときには必ず顔に触りますよね。ですから、顔に触る前、鼻をかむ前にも消毒する必要があるのです。

大久保公裕先生

花粉症治療は社会的ニーズ

COVID-19により、花粉症治療に対するニーズに変化はみられますか。

これまで花粉症は、いわば「個人的な病気」でした。本人は辛いものの、感染性ではないので周囲の人への影響はあまり考える必要がなかったのです。ところが、COVID-19により花粉症は個人的な病気ではなくなりました。COVID-19により、今や花粉症は社会的疾患へと変化しています。くしゃみや咳は周囲から嫌がられますし、こうした行為は許容されない雰囲気が世の中にあります。実際に、くしゃみや咳をすると周りの人がさっと避けますよね。
現在、日本におけるスギ花粉症の有病率は38.8%と報告されています。国民の約4割が花粉症ということです。ですから、無症候性のCOVID-19患者が花粉症でくしゃみをすると、現在のオミクロン株では特に咽頭にウイルス量が多いので、周囲の人の感染リスクが高まります。これまでの花粉症治療は、「日常生活に支障のない程度の薬物治療により症状を軽減すること」を目的とされてきました。しかし、花粉症は風邪とは違って症状を抑えられる疾患ですので、今後のwithコロナ時代の花粉症診療には「症状ゼロ」を目指す治療戦略が社会的にも求められていくでしょう。

パンデミックにより、社会における花粉症治療の位置付けが変わってきたということでしょうか。

今や花粉症治療は社会的ニーズだと考えています。医療資源は限られており、財源にも限りがあります。その限られた医療資源、財源を有効に利用することが社会的ニーズではないでしょうか。
例えば、2019年の論文で、花粉症の低年齢化が進んでいることが指摘されています1)。この報告によると、スギ花粉症の有病率が最も高い年齢層は10~19歳で49.5%という結果でした。この年齢層は、日本ではまだCOVID-19ワクチンが接種できない、または接種率が低い世代です。つまり、10代の子どもたちは、スギ花粉症の有病率が最も高い一方で、コロナワクチン接種率が低い年齢層でもあることから、COVID-19を他人に感染させるリスクが高いわけです。こういった方々の花粉症症状をゼロにすることが、社会的に求められています。

コロナ禍でオンライン診療が進みましたが、花粉症診療においてはいかがでしょうか。

耳鼻咽喉科においては、例えば花粉症で既に薬物療法を行っている患者さんや舌下免疫療法の維持期の患者さんなどは、オンライン診療が適しているのではないかと思います。適応を検討すれば可能性は開けると思いますが、課題も少なくありません。
耳鼻咽喉科医は、鼻粘膜をみることができれば風邪なのか花粉症なのかを判断することができます。しかし、電話やオンライン診療では鼻粘膜をみることができません。そのため、薬を多めに出すオーバートリートメントになりがちです。薬を多めに出し、そこから自分で増減を調整してもらうことになるのですが、その方法では個々の患者さんにピッタリ合った必要十分な治療をすることはできません。また、オンライン診療が適しているかどうかは、患者さんの生活背景などにも左右されます。ですから、個々の患者さんに適した治療や診療体形を考えていく必要があるでしょう。

大久保公裕先生

COVID-19と花粉症との鑑別

花粉症の症状とCOVID-19の症状には重複する部分もあると聞きますが、いかがでしょうか。

COVID-19の症状は、発熱、咽頭痛、咳、くしゃみ、鼻水、全身倦怠感、嗅覚・味覚異常など多岐にわたります。昨今のオミクロン株での感染では70%以上高率で鼻水がみられます。一方、典型的な花粉症患者の症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、鼻・目のかゆみなどで、これらの症状を呈する患者のなかにCOVID-19患者が紛れている可能性を念頭に置いておく必要があります。

鑑別で注意すべき点、ポイントがありましたら教えてください。

花粉症では、初期症状としてCOVID-19に特徴的な発熱や呼吸器症状、倦怠感、下痢などの消化器症状を呈することはあまりありません(表1)。COVID-19では間質性肺炎がみられる点が花粉症とは大きく異なるポイントです。また、インフルエンザと花粉症との鑑別も必要になりますが、インフルエンザでは発熱が特徴的です。
コロナウイルスも花粉も、どちらも鼻に入り、嗅神経、アデノイドの順に吸着します。この嗅神経が鑑別のポイントとなります。花粉症の場合は鼻づまりにより嗅覚障害が生じますが、COVID-19では鼻づまりがないのに嗅覚障害が起こることがあります。人は鼻づまりがあると匂いが分からなくなるのですが、COVID-19の場合は鼻づまりがないにもかかわらず、匂いが分からなくなることがあるのです。これは花粉症とCOVID-19の鑑別における重要なポイントです。
また、鼻づまりになると食べ物の味が分からなくなります。鼻づまりで匂いが分からないから味も分からないというように、花粉症の場合は嗅覚と味覚が連動しています。ところがCOVID-19の場合は、味覚障害を自覚する例の多くは味覚検査は正常だったそうです。つまり、COVID-19による味覚障害例の多くは、嗅覚障害に伴う風味障害の可能性が考えられるということが分かってきています。

表1 花粉症とインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症の違い

表1 花粉症とインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症の違い

「新型コロナウイルス感染症 外来診療ガイド 公益社団法人日本医師会, 第2版2020年5月29日」を参考に大久保公裕氏作成

COVID-19の後遺症と花粉症との鑑別

COVID-19後遺症はLong COVIDとも呼ばれ、長期にわたり続く場合もあるようですが、後遺症と花粉症との鑑別についてはいかがでしょうか。

後遺症のなかには、花粉症との鑑別が必要な症状もあります。例えば嗅覚障害や味覚障害、倦怠感、集中力低下、睡眠障害、目の充血、鼻の違和感といった症状が報告されており、これらは花粉症の症状とも共通しています。ただし、花粉症の場合はスギ・ヒノキなら2月後半から5月上旬というように流行の季節が決まっています。これらの症状が出る時期と花粉飛散シーズンとが重複しているかどうかが、見極めのポイントの一つとなるでしょう。COVID-19の後遺症はしばらく継続するので、症状が出現する時期をみると良いかと思います。

耳鼻咽喉科ではCOVID-19の後遺症を抱えた患者さんも診ているそうですね。

COVID-19の後遺症をよく診ている診療科は、耳鼻咽喉科と呼吸器内科だと思います。後遺症は嗅覚障害や味覚障害のほか、睡眠障害、頭痛、集中力の低下、間質性肺炎、呼吸のしづらさなど多岐にわたります。これらの症状が残った場合には、やはり各領域の専門家が対応すべきですが、症状は一朝一夕に消えるものではないということが分かってきています。
COVID-19からの回復例で耳鼻咽喉科を受診するのは、主に嗅覚障害や味覚障害を訴える患者さんですが、嗅覚障害・味覚障害は共に神経系のダメージなので、リハビリが必要になります。
こうしたCOVID-19後遺症による嗅覚障害に対し、耳鼻咽喉科では嗅覚トレーニングを始めています。レモン、ユーカリ、グローブ、花(ラベンダーまたはバラ)の4種類の香りを1日に2分、2回嗅ぐ、というトレーニングです。
インフルエンザになっても後遺症が残ることはほとんどありませんし、花粉症も花粉飛散シーズンが過ぎれば全く症状がなくなります。COVID-19の後遺症は神経系のダメージなどによると考えられており、回復にも時間がかかります。ですからCOVID-19というのはやはり特殊な感染症といえるのではないでしょうか。
そういった点からも、COVID-19は社会へのインパクトが大きい疾患であり、自分がかからない、相手にもうつさないということが非常に重要になります。これからの花粉症治療は、自分が感染源となって周囲に広げてしまうことのないよう、くしゃみや鼻水を完全に抑える「症状ゼロ」レベルを目指していく必要があると考えています。

文献

  1. 松原篤, 坂下雅文, 後藤穣, 他. 鼻アレルギーの全国疫学調査2019 (1998年, 2008年との比較) : 速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として.日耳鼻. 2020;123(6):485-90.

後編に続く

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