感染予防と
フレイル予防
の両立を

フレイル研究の第一人者である東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢先生は、自粛生活の長期化により、サルコペニアの進行を基盤としたコロナフレイルのリスクが高齢者において高まっていると警鐘を鳴らしています。その背景として、外出自粛に伴う運動機会の喪失といった直接的な要因だけではなく、地域社会や人と人とのつながりの断絶による影響も指摘されています。感染予防とフレイル予防を両立させていくにはどのような視点が必要なのか。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束に向けワクチン接種が急ピッチで進むなか、地域を軸にしたwithコロナ時代のフレイル対策の展望について飯島先生にお話を伺いました。

人とのつながりがより重要に

飯島勝矢先生

飯島勝矢先生

フレイル予防は、「栄養(食・口腔機能)」「身体活動(運動・社会活動など)」「社会参加(就労・余暇活動・ボランティアなど、人とのつながり)」の3つの柱が鍵とのことですが、コロナフレイルの予防においても、これらの要素が重要であることは同じだと考えて良いのでしょうか。

フレイル予防における栄養、身体活動、社会参加から成る「三位一体」の重要性は新型コロナウイルス感染症が拡大する以前から発信しており、もともと地域課題でもあったのですが、今回のコロナ禍において露呈したという状況です。
特に、文化活動や地域活動などの人とのつながりがフレイル予防には重要であることが明らかとなってきています。われわれが行った調査でも、コロナ禍でもマスクや手洗いといった感染対策に配慮した上で社会参加が維持されている方と、維持できなかった方々を比べると、社会参加が維持されていた人たちの方が握力や筋肉量の低下の度合いが非常に少ないという結果が示されています。
実際に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行前に行った調査では、身体活動が困難な人であっても、文化活動や地域活動など人とのつながりが維持できているとフレイル予防につながるという可能性が示されました。この調査は、約5万人の自立高齢者を対象に「身体活動(運動習慣)」「文化活動」「ボランティア・地域活動」の3つの活動について、それぞれの有無とフレイルリスクとの関連を調べたものです。3つの活動を全て行っている人のリスクを1とした場合、3つとも行っていない人のリスクは約16倍でした。興味深いことに、「運動」だけを行っている人と「運動はしていないが文化活動や地域活動は行っている」という人を比べると、前者の方が後者よりもフレイルになるリスクが3倍高いという結果になりました。

「運動」よりも「文化活動や地域活動」がフレイルリスクと関係するというのは意外ですね。

これは運動を否定するものではなく、非運動性熱産生(non-exercise activity thermogenesis:NEAT)の現象と考えられます。熱産生、すなわちカロリー消費のことを指すわけですが、これを裏付けるエビデンスといえます。
社会参加をしている人が家でスクワットなどの筋トレを行っているわけではなく、外出をしたので結果的に身体活動量が多くなったものと推測されます。純粋な運動はしていないけれど結果的に外出が身体活動につながっているという、この「結果的に」というところが継続性という点で最も重要なのです。高齢者、特に後期高齢者は自身のモチベーションだけでしっかり運動するというのはなかなか難しいものです。ですから、日常生活における地域の集いの場、通いの場といった地域活動を通して、結果的に外出時に歩いていた、体を動かしていたという高齢者が圧倒的に多く、実はその行動がフレイル予防になっていたということだと考えています。

飯島勝矢先生

正しく、賢く恐れることが大切

それでは、コロナ禍で地域活動が停止してしまったことは、フレイルリスクの増大に大きく影響してくるということですね。

当初は、新型コロナウイルス感染症の感染経路や予防策についてはよく分かっていませんでした。高齢者は重症化リスクが高いといわれていたこともあり、コロナ感染を過剰に意識するがあまり自粛生活が長期化した結果、極度の低活動・生活不活発の状態が進み、サルコペニアが進行してしまいました。地域活動が休止されて人とのつながりが断たれてしまったことで気持ちの張りも失い、必然的に体を動かす場面もなくなり、それにより生活不活発が進むという悪循環となってしまったのです。
しかし、幸い新型コロナウイルス感染症は空気感染ではなく、接触感染、飛沫感染であることが分かってきており、流行から1年以上経過した今では感染防御策が明らかとなっています。すなわち、こまめな手洗いや手指の消毒、3つの密(密閉・密集・密接)の回避、ソーシャルディスタンスの確保、マスク着用の徹底などです。これらの防御策を忠実に実行し、日常生活に取り入れていけば、地域活動の再開も不可能ではありません。実際に、コロナ禍でも感染予防に配慮しながらフレイルチェックを前向きに実施し続けた自治体も存在しています。
メディアの報道は感染者数の日々の増減に集中しがちです。しかし、これからは新型コロナウイルス感染症を過剰に恐れるのではなく、「正しく、賢く恐れる」ことを促していくことが重要と考えています。感染者を出さないための一番の方法は地域活動を止めることです。しかし、そこには良い面と悪い面があります。新型コロナウイルス感染症を軽視してはいけませんが、自粛生活によるメリット・デメリットも含めた情報提供が必要です。メディアにはバランスの取れた報道を求めたいですし、メディアやわれわれ医師は、感染予防を強調するだけではなく、生活不活発や人とのつながりの重要性もしっかりと訴えていく必要があります。

飯島勝矢先生

Withコロナ時代に求められる
「地域社会のニューノーマル」

現在、国内では新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が各自治体において急ピッチで進められています。社会や経済の再開が視野に入ってきたわけですが、今後、フレイル予防の観点からどのように地域活動を再開していったら良いとお考えですか。

特に後期高齢者のサルコペニア、コロナフレイルを予防するためには、人とのつながりや社会参加が重要です。自主的に運動することが難しい高齢者にとって、地域活動が担っていた役割は非常に大きいのですが、高齢者が集う場を提供してくれているのは、多くが自治体です。しかし、自治体が自分たちでリスクを負って活動を再開できるかというと難しいのが実情かと思います。
地域活動を再開させるには、国家戦略 として国が3つの「守る」を実現すべきだと考えます。つまり、感染から国民を守り、経済を守り、健康・健全な地域社会を守るということです。国が指針を示せば、自治体も活動を再開しやすくなります。
再開させる際には、休止している地域活動を単に「いつ再開させるのか」というだけではなく、「Withコロナ、ポストコロナ社会を見据えた新たな地域像をどう構築するのか」という視点で考えるべきです。この1年で、「ニューノーマル(新しい生活様式)」という言葉が随分と広まりました。感染対策を日常生活に溶け込ませた上での一人ひとりのニューノーマルという意味で使われていますが、私は地域社会の新しいつながり方、集い方という意味で、「地域社会のニューノーマル」が必要だと思っています。
どういうことかというと、止まった地域活動を再開する際には、単にこれまでの活動を元に戻すだけではなく、オンライン技術を活用して新しく進化した形で再開してほしいと思うのです。それが地域社会におけるニューノーマルということではないでしょうか。

飯島勝矢先生

身体は離れていても心は近付ける地域社会を

対面だけではなく、オンラインであったとしても、人と人とがつながる意義は大きいということですね。

現在、われわれはオンラインによるフレイルチェック方法を開発しています。現場で行っている対面式の既存の枠組みに電話やインターネットなどのオンライン技術を融合させて人とつながり続けることが重要であると考えています。
高齢者はITリテラシーが低いから無理だと決めつけてしまいがちですが、いざとなったらやり方を覚えて使いこなす高齢者は少なくありません。実際に、われわれが全国の自治体で数多く養成しているフレイルサポーター、地域の元気シニアもZoomでラボミーティングに参加してくださっています。新型コロナウイルス感染症は徐々にインフルエンザのような形に落ち着くと推測されます。ですから、何でもかんでもオンラインに切り替えれば良いというものではありませんが、現場とオンラインをうまく融合させて、ご高齢の方にもオンラインでつながることの重要性や魅力をうまく伝えていくことが求められるでしょう。
それから、創意工夫によっては家のなかでの活動をエンジョイできるよう、自宅生活を充実させることも大切です。高齢社会総合研究機構では、高齢者が自宅での時間を楽しく健康的に過ごすための知恵をまとめた「おうちえ」(http://www.iog.u-tokyo.ac.jp/?p=4844&lang=ja)を作成し、一般に公開しています。「おうちえ」では、健康を保つための食事の工夫や室内でできる運動、おうち時間をより快適に過ごすための工夫、もしものときのための準備、離れていても地域とつながるための工夫、心の健康を保つための工夫などを具体的に紹介しています。
感染対策としての新しい生活様式も当然重要ですが、それに加えてIT技術を駆使して、地域や人とのつながり方や集い方の新しい形である「地域社会のニューノーマル」を上手に日常生活に取り入れ、「身体は離れていても心は近付くことができる地域社会」を構築していくことが、withコロナ時代のフレイル対策につながるのではないかと思います。

飯島勝矢先生
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