自粛生活がもたらすコロナフレイル
~「良質な脅し」で行動変容を促す~

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行に伴い自粛生活が長期にわたり続くなか、高齢者における心身への影響が懸念されています。東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢先生は、コロナ禍において外出機会が減り地域社会とのつながりが希薄化することで、運動機能や認知機能が低下して要介護状態へと進行する「コロナフレイル」のリスクが高まっているとして、フレイル対策の重要性を訴えています。飯島先生に、自粛生活の長期化が高齢者の生活や身体に及ぼす影響や、フレイル予防のポイント、さらに高齢者の意識や行動の変容を促すための効果的なアプローチについてお話を伺いました。

コロナ禍で進む生活不活発
食生活の乱れ、人とのつながりの断絶も

飯島勝矢先生

飯島勝矢先生

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が続くなか、高齢者にはどのような影響が及んでいるのでしょうか。

ヒトは加齢に伴い心身の機能が徐々に低下し、要介護状態に陥っていきます。この心身機能が顕著に低下して生活機能障害を来し、要支援・要介護、さらには死亡リスクが高まる状態を「フレイル」といいますが、自粛生活が長引くことでフレイルの状態に陥るリスクが前倒しで高まることが予想されます。この過剰な自粛生活の長期化によるサルコペニアの進行を基盤とした健康二次被害、いわゆる「コロナフレイル」が懸念されています。

フレイルが進行すると、さまざまな疾患リスクが高まると言われていますね。

フレイル状態が悪化すると、まず階段を上れなくなるなど移動能力が低下し、認知機能も低下します。筋肉には血糖値を調整する働きもあるため、筋肉が衰えると糖尿病管理の悪化にもつながります。さらに感染症に対する免疫力も低下するので、新型コロナウイルスだけではなくインフルエンザや結核など、その他の感染症にもかかりやすくなりますし、重症化もしやすくなるなど、負の連鎖が起こります。

自粛生活が長期化するなかで、実際に高齢者の社会生活にはどのような変化が生じているのでしょうか。

自粛生活により、日本が第1波に襲われた2020年4月頃には既に活動低下、いわゆる生活不活発の傾向がみられることが報告されており、われわれの研究チームでも同様の知見を得ています。
われわれは地域の元気な高齢者をフレイルサポーターとして養成し、高齢住民主体のフレイルチェック活動を軸とした健康長寿まちづくりの活動を全国73(2021年4月現在)の自治体で行っています。このフレイルチェック活動を導入している3つの自治体で、新型コロナウイルス感染症の拡大前後における各地域の元気な高齢者への影響を調査したところ、新型コロナウイルス感染症による自粛生活が高齢者に影響を及ぼしていることが分かりましたのでご紹介します。
ある自治体の調査では、40%以上の高齢者に外出頻度の著明な低下が認められました。そして外出頻度が低下した高齢者は、外出頻度が低下しなかった高齢者と比べて「運動できていない」「会話量が減っている」と答えた人が有意に多いという結果でした。また、13%の人が外出頻度は「週1回未満」と回答しており、いわゆる閉じこもりの傾向も認められています。この閉じこもり傾向がみられた人では「バランスの良い食事ができていない」と回答した人も有意に多いという結果が示されました。買い物に行けずに食材が手に入らないなどの回答もみられたことから、自粛生活の長期化により、顕著な生活不活発だけではなく、外出頻度の低下から食事を簡単に済ませたり欠食するなどの食生活の乱れ、さらには人とのつながりの断絶がみられました。

サルコペニアを中心にフレイル化が進行

生活不活発の状態が続くことで、身体面にはどのような変化が生じているのでしょうか。

別の自治体で新型コロナウイルス感染拡大前後の身体機能の実測値を比較したところ、新型コロナウイルス感染拡大後には握力の低下、ふくらはぎ周囲長の減少、 筋肉量の減少、滑舌の低下などが認められました(表1)。具体的には、ふくらはぎ周囲長は平均1.1cmの減少(46人中24人)で、手足の筋肉量の減少は歩行速度の低下や転倒・骨折のリスクにつながります。また、筋肉量は特に体幹部が約8%、重さにすると平均1.6kgと顕著に減少(46人中40人)していました。体幹の筋肉量の減少は身体を支える力の低下を示しますので、転倒・骨折のリスクや免疫機能の衰えにつながります。滑舌の低下は46人中23人にみられましたが、これは口の機能の衰えをあらわしますので、食べこぼしや嚥下障害、認知機能の低下につながるおそれがあります。

表1 新型コロナウイルス感染症による身体面・社会面への影響

表1 新型コロナウイルス感染症による身体面・社会面への影響

フレイルチェックにおける新型コロナウイルス感染拡大前後の比較

東京大学高齢社会総合研究機構 孫輔卿、飯島勝矢.
Son BK, Iijima K, et al. J Frailty Aging. 2021 (in press)より作成.

また、3つ目の自治体では、筋肉量を反映するとされるサルコペニアのリスク指標でもある「ふくらはぎの太さ」、それから筋力と密接に関連する「歩行速度」の2つに関して*、新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛要請の前後で比較したところ、24.3%の高齢者でふくらはぎの筋肉量の減少が推測されました。ふくらはぎの筋肉量が減少した高齢者を、減少しなかった高齢者と比較したところ、身体活動量の低下した人は2.8倍、人と会う機会やつながりの低下した人は3.4倍多いことが分かりました。また、歩行速度の低下がみられた27.3%の高齢者を、低下しなかった高齢者と比較したところ、身体活動量の低下した人は3.4倍、人と会う機会やつながりの低下した人は9.5倍多いことが分かりました。
身体的なフレイルには、口腔機能が低下する「オーラルフレイル」が含まれます。口腔機能の衰えを放置すると、しっかり食べられなくなり身体機能の低下につながります。実際に、先ほどの前後比較でふくらはぎの筋肉量や歩行速度が低下した人では、口腔機能の低下を訴える人が3~5倍多く認められています。また滑舌が低下した理由としては、自粛生活で人との交流が減り、会話の機会が減ったことが大きく影響していると思われます。
このように、コロナ禍における自粛生活の長期化により、生活不活発や食生活の乱れ、さらには社会性の低下を基盤としてサルコペニアを中心としたフレイル化が進行してきていることが、複数の自治体のデータから明らかとなってきています。

*:「ふくらはぎの太さ」は、筋肉量の簡易評価法である「指輪っかテスト」で測定。指で輪っかを作りふくらはぎを囲む方法で、自分で測定することが可能。「歩行速度」は質問票を用いて評価した。

フレイル予防の柱は栄養、身体活動、社会参加

フレイルは予防できるのでしょうか。

フレイルは健康な状態と要介護状態の中間に位置しますが、可逆的であり、適切に対応すれば進行を予防することができます。フレイルは多面的であり、サルコペニアなどの「身体的要素」、うつや認知機能低下などの「心理的・認知的要素」、独居や経済的困窮などの「社会的要素」で構成されます。ですから、フレイルを予防するためには、これら3つの面から対処する必要があります(図1)。

図1 フレイルの構成要素

図1 フレイルの構成要素

それでは、自粛生活が続くなかでコロナフレイルを予防するには、どのような点に気を付ければ良いのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の問題にかかわらず、フレイル予防は、「栄養(食・口腔機能)」「身体活動(運動・社会活動など)」「社会参加(就労・余暇活動・ボランティアなど、人とのつながり)」の3つの柱が基本です(図2)。これらをいかに日常生活のなかに継続的に取り込むことができるかが鍵になります。

図2 フレイル予防のための「3つの柱」

図2 フレイル予防のための「3つの柱」

東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢(作図).日医ニュース 2019年6月5日号 付録 健康プラザNo.519

高齢者に意識や行動の変容を促すのは容易ではないと思いますが、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。

3つとも底上げしなくてはと強調するだけでは漠然としているので、一つひとつ丁寧に、具体例を挙げてお話ししていく必要があります。なお、その際には「良質な脅し」が不可欠と考えています。「良質な脅し」とは、行動変容につながるように根拠に裏付けられた話を分かりやすく、「へえ、そうだったんですか」と思ってもらえるように伝えるということです。

「へえ」という感覚が行動変容を促す

それは大変興味があります。具体的にどのような工夫をされているのか、ぜひお聞かせいただけますか。

例えば、筋肉を維持するためにはタンパク質の摂取が重要となりますが、単に「タンパク質を多めに摂ってください」と言っても聞き手の心には響きません。具体的な数字を交えてリアリティのある、イメージが湧くような言葉で伝えると、聞き手はハッとします。
筋肉を維持するのに必要最低限の1日のタンパク質摂取量は、体重1kg当たり1gですが、サルコペニアを予防、改善したい場合は体重1kg当たり1.2~1.5gが必要です。ですから体重60kgの人は1日に70~90gのタンパク質を摂取する必要があるわけです。ところが、食品にどの程度のタンパク質が含まれているかは一般にはあまり知られていません。朝食に納豆、豆腐の味噌汁、白身魚を半切れ食べたらそれなりのタンパク質を摂取していると思いがちですが、実はタンパク質が占める割合は2割程度、200gのステーキでもタンパク質の含有量は35~40gに過ぎないのです。普段の生活のなかで200gのステーキを毎日2枚食べるなんて無理ですよね。ですから、そうした感覚のずれを直しつつ、いかにタンパク質をさまざまな食材から幅広く摂取しなければいけないのかという話をしています。
それから高齢になると、若い頃と同じ量のタンパク質を摂取しても体重が減少してしまうことがあります。タンパク質同化抵抗性と言い、高齢者では胃袋に入ったタンパク質が必ずしも全て血や肉となるわけではないのです。ですから若い時以上にタンパク質を摂らなければならないのです――という話をすると、大きな反響があります。
運動にしても、「閉じこもっていたらダメですよ」「なるべく歩くようにしましょう」などの漠然とした言葉だけでは高齢者には響きません。そもそも、普段から運動習慣がある人は3割しかいません。残りの7割にどうやって意識や行動を変容してもらうかが鍵となるのです。そこで「高齢者の場合、2週間の寝たきり生活で7年分の筋肉が失われるのですよ」と言うと、初めて聞いた人は「へえ」と思うわけです。そういった「へえ」という感覚がないと、人間は変われないのです。

1日に必要なタンパク質を肉に換算すると毎日200gのステーキを2枚食べる必要がある、などの具体的なお話を聞くと、確かに衝撃を受けますね。「へえー、そうなんですか?」と驚いてしまいます。この「へえ」という感覚が、行動変容につながる第一歩となるのですね。

その上で、具体的にどのような対策が必要なのかを分かりやすく伝える必要があります。例えば、みんなでワイワイ小一時間かけてウォーキングして、うっすら汗をかいて、「今日は〇千歩も歩いたわね」「血圧計ったら歩く前より少し下がってるわ」なんていうのは、悪くはないんですよ。ぜひやってもらいたいと思っていますが、それだけでは不十分なのです。実は、自立度の衰えに直結するのは足腰、主に太ももの筋肉です。ウォーキングは有酸素運動としては良いのですが、実はふくらはぎを鍛えているだけなのです。ですから、ウォーキングだけではサルコペニアは改善しません。有酸素運動とレジスタンス運動、いわゆる筋トレですが、特に太ももを意識した筋トレやランジ(脚を前後に開いた姿勢で、股関節や膝関節の曲げ伸ばしを行う動き)などを組み合わせた運動が有効です。太ももを鍛えるには体の上下移動が不可欠で、典型的なのはスクワット、階段昇降、坂道を歩く、などです。スクワットは、太ももがプルプル震えるぐらい1回あたり10~20秒かけてゆっくり行う必要があるので、そういったコツを伝えることも大切です。

(後編に続く)

-------- サイドバー、共通テンプレート --------