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老化とバイオマーカー

第2回 腎老化とバイオマーカー

佐藤稔柏原直樹

Anti-aging Science Vol.3 No.2, 86-90, 2011

はじめに
 バイオマーカーとは,尿や血清中に含まれる生体由来の物質で,生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標となるものを指す.バイオマーカーはある特定の疾病や体の状態に相関して量的に変化するために,そのバイオマーカーの量を測定することで疾病の診断や効率的な治療法の確立などが可能となる.腎疾患領域におけるバイオマーカーの意義は,腎疾患進行リスクの高い患者を早期に絞り込み,集約的治療を行うことにある.現在,腎障害を評価するためのバイオマーカーは,従来から用いられている血清クレアチニンや,尿蛋白がある.新たなバイオマーカーとしては,急性腎障害(acute kidney injury:AKI) の早期診断のため,好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(neutrophil gelatinaseassociated lipocalin:NGAL)や肝型脂肪酸結合蛋白(L type fatty acid binding protein:L-FABP)の有用性が報告されている.しかし,腎老化を特異的に評価するためのバイオマーカーはないのが現状である.本稿では,腎臓の老化と腎障害をモニターするバイオマーカーについて解説する.

Key Words
シスタチンC,酸化ストレス,L-FABP,炎症性老化,腎性老化

腎臓の加齢に伴う変化

 腎臓は加齢に伴い性差によらず腎機能は低下する.糸球体濾過率(glomerular filtration ratio:GFR)は加齢に伴い低下する1).従来欧米人ではGFRは1 mL/min/yearの速度で低下することが報告されていた.日本腎臓学会慢性腎臓病対策委員会が行った疫学調査によると,日本人では加齢に伴うGFRの低下速度はずっと緩やかであり,この約1/3 の速度で緩徐に低下することが明らかになった.いずれにしても加齢に伴い腎機能は低下することに変わりはない.わが国では60歳代では男性の約30%,女性の約45%が推算GFR 60 mL/min/1.73m2未満の慢性腎臓症(chronic kidney disease:CKD)であると推測されている.加齢に伴う腎の形態学的変化は循環系の傷害に基づく腎重量の減少が主体となる2).腎萎縮は皮質有意に起こり,髄質は比較的保たれる.腎実質の萎縮は腎内における細小動脈の硬化・閉塞がその主たる原因と考えられており,特に皮質の表層で著明である3).組織学的には,加齢により糸球体は力学的ストレス負荷の蓄積により構造変化が生じ,硬化糸球体へと変化していく.この硬化性糸球体の割合は年齢とともに増加する傾向にある4).加齢の腎血管系への影響としては,最初に腎内細小動脈に加齢変化が生じる.高血圧症,糖尿病の合併がなくても,腎内葉間動脈,弓状動脈,小葉間動脈には40歳代以降中膜平滑筋や弾性線維の増加が認められ,ときには内腔の肥厚も認められ,内腔の狭小化や閉塞が進行する5).高血圧や糖尿病などの基礎疾患が存在する場合には,この加齢変化はより高度に進展する.尿細管は加齢により細胞数減少が生じ,ネフロン長の短縮が生じる5).しかし,これらの組織学的変化は個人差が大きく,加齢変化と病的変化の区別は必ずしも容易ではない.すなわち,末期腎不全と加齢腎には共通した病理組織学的変化が認められ,腎障害の共通した進行過程が存在することが示唆される.したがって,加齢腎のバイオマーカーには腎障害マーカーが代用できると考えられる.

血中バイオマーカー

 腎障害の血中バイオマーカーとしては,細胞内外の環境変化に対する影響を受けることなく一定の割合で産生・分泌され,主に糸球体濾過により排泄される物質が適している.すなわち腎糸球体濾過の減少を反映し,増加が検出できる生体内物質である.臨床的にはクレアチニン,シスタチンCが測定されている.

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