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Trends in Psychiatry

古典『一本堂行余医言 巻之五 癇とその周辺』

濱田秀伯

精神科臨床 Legato Vol.8 No.3, 52-54, 2022

慶應義塾大学医学部の後輩に田邊 英君という精神科医がいました。文学部で哲学の学位も取得した博識な人物で,医学史,特に江戸医学に造詣が深く,非常に楽しく交流していたものです。あるとき,彼が慶應義塾大学医学部北里記念医学図書館(現・信濃町メディアセンター)の書庫から1807年に出版された本書の原書を探し出し,「いつかこれを現代語に翻訳して漢方医学,江戸文化,古典に関心を寄せる人たちに紹介してほしい」と私に託したのです。その後,田邊君は病気により急逝したため,私は彼の遺志をなんとかして果たしたいと思い,現代語訳に取りかかりました。
作業は大変で,翻訳と注釈の作成に10年近く費やしました。漢文の訳読は東京学芸大学名誉教授の松岡榮志先生,東京学芸大学の中村孝子先生,生薬や漢方の不明な部分は株式会社ツムラの学術部の協力を得るなど多くの方々のサポートを得て,ようやく田邊君との約束を果たすことができたとホッとしています。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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