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特集 AGEsと女性医療

3 AGEsと肌老化

市橋正光

WHITE Vol.7 No.2, 22-28, 2019

人は見た目で心身の健康状態や若さをかなりの程度まで推察できる.したがって,医師が患者の皮膚の若さと健康状態を正しく評価することは重要と考えられる.筆者は,一人の皮膚科医師として,患者の肌の若さを維持・回復するための方法を学会での講演,あるいは他の情報媒体から学び,また,自らサイエンスに基づいた新しい方法を摸索しながら診療を続けてきた.この間,医学・科学の進歩が皮膚疾患治療だけでなく,皮膚の健康維持・若返り治療法に大きな影響を与えてきていると実感している.皮膚老化の特徴は,シワ,たるみ,シミ,くすみなどであるが,皮膚老化は加齢による内因的な老化と,外因による老化,特に太陽光線による光老化ひかりろうかに2大別される.本稿では,皮膚の老化・光老化に関与すると考えられる要因の中で,特に近年注目されている糖化ストレスが皮膚の健康に与える影響について紹介する.
太陽光線の中でも特に紫外線B(波長290~320nm)は皮膚細胞核のDNAに吸収され,紫外線特有の損傷を誘発する.また,細胞内外に存在するアミノ酸やビタミンなどの小分子も紫外線を吸収し,そのエネルギーを周辺の小分子や酸素分子に与え,活性酸素を生成し皮膚を老化させる1-3).われわれが太陽光線を浴びながら生きている限り,紫外線曝露は避けられない.DNA損傷は皮膚の炎症を引き起こし,表皮,真皮,皮下脂肪組織に傷害を与える.また,遺伝子のDNA損傷の修復過程で間違いが起きると遺伝子に突然変異が誘発され,複数の突然変異の重なりがシミや皮膚がんを誘発すると考えられる4).紫外線に曝露された皮膚では,急性炎症反応(日焼けと呼ばれ,皮膚が赤くなるサンバーンと,黒くなるサンタンの両反応)が惹起され,その繰り返しで光老化が起きることが科学的に明らかにされてきている5)6).炎症に深く関わる生理活性物質中で何が最も重要なのかは現時点で明らかではないが,ケモカインCXCL1が重要な働きを演じている可能性が示唆されている7).炎症に関わる細胞を呼び寄せるケモカインが主役と考えると,そのケモカインの生成を制御することは,炎症の制御であり,老化を遅延させる可能性が考えられる.DNA損傷は遺伝子変異に関わるだけでなく,ケモカインの発現を高め皮膚老化を誘発すると理解することができる.
本稿で取り上げる終末糖化産物(advanced glycation end products: AGEs)は,Maillardによる発見後すでに100年以上が経過しているが,皮膚の老化,特に光老化との関係が科学的に示唆され始めてからわずか20年ほどである8).この間,AGEsに関する基礎と臨床研究は急速に発展してきた.近年では,皮膚細胞に強く発現されているAGEsの受容体RAGE(receptor of AGEs)の生物活性が組織炎症惹起との関連から注目されている9)
老化の原因に関しては,近年に至るまでに多くの説が提示されている.遺伝子の不安定性,テロメアの短縮,エピジェネティックな変化,活性酸素による核酸,異常タンパク質の蓄積,ミトコンドリアの機能異常,幹細胞の減少と消失,細胞間情報交換の劣化などに加え,AGEsがこれらの多くの原因と関わりがある点からも注目されてきている10).AGEsが皮膚老化に関与することを示す研究報告で,タンパク質の寿命が長いコラーゲンや弾性線維に蓄積することは早くから指摘されていたが,近年,寿命がわずか数十日と短い角化細胞内にも蓄積することが明らかになっている11)12).これまでに報告されている論文に,筆者の研究結果を加え,現時点でAGEsが肌老化にどのように関与するかを提示したい.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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