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欧州糖尿病学会(EASD)

EASD 2012でベルリンを訪れて

横山宏樹

DIABETES UPDATE Vol.2 No.2, 64-66, 2013

東欧,ベルリン
 北海道でも異常に残暑が長引く中で日本を発ち,2012年10月2日のベルリンの朝は,手袋が欲しいくらい風も冷たく,紅葉も見られてすっかり秋の景色でした。ベルリンは,人口約350万人の大都市でありながら,総面積約890km2の60%が森林であり,川や湖など自然に富み,大変美しい街です。ロンドンやパリと異なり,スラブ系民族やイスラム教徒の割合が多く,東欧を感じさせます。1989年にベルリンの壁が崩壊されその翌年に統一ドイツとなってから,早くも22年が経過しましたが,ベルリン空港(Tegel)はまだ古く,建設中のビルや道路も散見されました。

EASD 2012の概要

 2012年の第48回欧州糖尿病学会(EASD)も例年のように世界各国から約1万8千人が参加しました。私はSteno糖尿病センターへの留学を契機にEASDへは毎年参加して発表を行うように心がけています。雰囲気が気さくでありながら,内容を重視する考え方に共感しています。2012年は採択率50%に通った1,270題が発表されました。タイトなスケジュールではあるものの,並行セッションは6つであり,口演が1題15分,ポスターが1題6分の流れには,討議する余地もあり,時間の流れがゆったりしている欧州文化を反映し心地よく感じます。“どのセッションに行くか考えるだけで疲れてしまう”ということがないのは,有難いことです。

1.新規糖尿病治療薬
 昨今の話題であるインクレチン関連薬の中で,新たなDPP-4阻害薬であるリナグリプチンが,アルブミン尿を顕著に減少させる効果があることが,述べられていました。リナグリプチンにより血糖値が低下した群のみならず,下がらなかった群においてもアルブミン尿の有意な減少を認め,血糖コントロールと独立したDPP-4阻害薬の作用が論じられていました。
 またデグルデクに関する発表も,数多くありました。基礎インスリン補充としてより長く効く超持効型と言うべき新たなインスリンです。毎日1回グラルギンを皮下注射する方法に比べ,その倍の量を月・水・金と週に3回のみ皮下注射する方法でも,同等な血糖コントロール効果が得られているようです。週3回法が日本人の習慣に合うかは別としても,デグルデクを毎日注射することにより,より安定した基礎インスリン補充効果が得られる期待は大きいかと感じられました。

2.糖尿病の合併症
 糖尿病と癌の関連も,シンポジウムで議論されました。糖尿病患者は,癌を発症しやすいという話題が,昨今盛んに取り沙汰されています。これは糖尿病診断時に癌も同時に偶然発見されていることが大きく影響しているようです。糖尿病の罹病期間に伴う癌発症率の増加は高くないことが示されていました。糖尿病の診療や研究とは全く無縁である公衆衛生学や統計学の研究者と共に,激しい討議がなされる光景は,素晴らしいものでした。癌が発見された時点が,糖尿病と診断される以前であったか以降であったかは,糖尿病と癌の因果関係を探究するうえで非常に重要であります。また,コホート研究を組んでも,観察開始時に既に癌があったかなかったかにより,考え方が異なってきます。主要な欧州各国は,登録システムにより癌の存在や生死は100%把握されています。これは研究者にとっては極めて有益です。グラルギン使用と癌発症の因果関係も議論されましたが,グラルギンの使用期間と投与量,すなわち曝露量を明確にすることが発癌性のリスク解析には必須であると述べられていました。グラルギンと癌の因果関係は有意でないとも言われましたが,グラルギン使用平均期間がまだ3.5年である現時点において,結論できない結果でした。糖尿病と癌の関連に関しては,予め定められたプロトコールに基づき,前向きにコホート研究をする重要性が強調されていました。
 心血管イベントや死亡を予知できるバイオマーカーとして,以前から知られているAGEの血清マーカー(ペントシジン,CME)やNT-proBNPとともに,新たにアンギオゲニン,レジスチン,コペプチン(バソプレシンの前駆物質)の予知因子としての意義が述べられていました。

3.腎交感神経遮断術
 大変興味深い話題として,腎交感神経遮断術(renal sympathetic denervation)が,シンポジウムにて取り上げられていました。降圧薬3剤併用で収縮期血圧160 mmHg以下に至らない難治性高血圧症を対象とした治療法で,まだ各施設で広く行われている訳ではなく,今回はSaarland大学での経験が詳述されていました。カテーテル操作(percutaneous catherter-based endovascular radiofrequency ablation)で行われ,交感神経遮断後,3~6ヵ月の単位で徐々に血圧が下がり,降圧薬も減量できるようです。この治療により,左室肥大や左室拡張不全の有意な改善,さらにはアルブミン尿の減少も得られているようです。起立性低血圧などを含む副作用はほとんどないと言われていました。慢性交感神経緊張はインスリン抵抗性へ作用しますが,この治療によりインスリン抵抗性の改善も得られており,今後の糖尿病患者における降圧治療の選択肢の1つとして画期的な位置付けになるかも知れません。

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