糖尿病入門
日本人の大規模臨床試験
DIABETES UPDATE Vol.2 No.1, 26-31, 2013
はじめに
2型糖尿病の治療において,良好な血糖コントロールが血管合併症を減少させることが示されており,日本人におけるエビデンスも得られつつある。本稿では進行中のものも含め,3件の大規模臨床試験を取り上げ概説する。
熊本スタディ
1.概要
熊本大学を中心とする3施設で行われた熊本スタディは,我が国で初めての2型糖尿病に対する介入研究である。対象は70歳未満で,インスリン治療(中間型インスリンの1日1~2回注射で治療中,または新規導入)を受ける2型糖尿病症例であり,網膜症・腎症を認めない一次予防群と,単純網膜症と微量アルブミン尿を認める二次介入群が含まれた。
それぞれが従来インスリン療法群(以下,従来群)と強化インスリン療法群(以下,強化群)にランダムに割り付けられた。前者では空腹時血糖値140 mg/dLを目標に,中間型の1~2回注射が,後者では空腹時血糖値140 mg/dL,食後2時間値200 mg/dL,HbA1c(NGSP, 以下同じ)7.4%を目標に,1日3回以上のインスリン注射が行われた。評価項目は網膜症,腎症,神経障害,大血管障害,糖尿病関連死であった。
1987年から翌年にかけ,実際に登録されたのは110例であった。登録時の平均HbA1c値は約9.5%,糖尿病の平均罹病期間は約8.5年であり,その後の追跡期間は6年だった1)。
2.6年間の追跡終了時の結果
強化群では,登録後3ヵ月の時点からHbA1c値が有意に低下した。以降は6年間の追跡期間終了まで,両群ともその差を保ったまま,ほぼ横ばいで推移した。期間中の平均HbA1c値は,従来群で9.8%であったのに対し,強化群では7.5%と有意に低値であった(p<0.05)。
網膜症の6年間累積発症率は,一次予防群では従来群で32.0%,強化群で7.7%(p=0.039),二次介入群では従来群で44.0%,強化群で19.2%であり(p=0.049),いずれも有意な差であった(図1)。
両群をまとめると,従来群で38.0%,強化群で13.4%であり,強化インスリン療法は網膜症増悪のリスクを69%有意に低下させた(p=0.009)。
一方腎症の6年間累積発症率は,一次予防群では従来群で28.0%,強化群で7.7%(p=0.032),二次介入群では従来群で32.0%,強化群で11.5%であり(p=0.044),いずれも有意な差であった(図2)。
両群をまとめると,従来群で30.0%,強化群で9.6%(p=0.005)であり,強化インスリン療法は腎症増悪のリスクを70%有意に低下させた(95%CI 14~89%)。腎障害マーカーである尿中NAGも,従来群で増加した一方,強化群では減少し,群間差は有意であった(p<0.05)。
神経障害に関しては,従来群で正中神経伝導速度と振動覚が共に有意に悪化した一方,強化群では前者は有意に改善,後者も改善傾向を示し,群間差はいずれも有意であった(p<0.05)。
大血管障害に関しては,従来群で13件/1,000人・年,強化群で6件/1,000人・年であり,また糖尿病関連死は両群で1件ずつであった。
低血糖の頻度は両群で差はなく,重篤な低血糖はなかった。体重に関しても,両群共に僅かな増加傾向を認めるのみであった。
また血糖コントロールと合併症の進展についても解析がなされており,網膜症と腎症のいずれも,HbA1c 6.9%未満,空腹時血糖値110 mg/dL未満,食後2時間値180 mg/dL未満では増悪がみられなかった(図3)1)。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。