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Interview & Talk 施設紹介

愛知医科大学医学部学際的痛みセンター

牛田享宏

Practice of Pain Management Vol.1 No.1, 40-50, 2010

疼痛診療との出会い
 自分自身が怪我をして神経を痛めたことがきっかけで,神経に興味をもち,高知医科大学(現高知大学医学部)卒業後,同大学整形外科に入局しました.整形外科では脊椎外科のグループに入って電気生理の研究をしていました.そんなある時,痛みを電気生理学的に評価するという神経因性疼痛モデルの論文を読んで衝撃を受け,その論文の著者であるChung先生が所属するUniversity of Texas Medical BranchのWillis教授の教室に29歳から1年間留学しました.
 帰国後,徐々に研究の方向性が変わってきて,疼痛をメインにするようになっていきました.同時に,手術をしても芳しくない患者さんの疼痛管理を任されるようになりました.しかし,従来の整形外科領域の薬剤だけでは疼痛が改善しないことも多く,麻酔科にコンサルトすることもしばしばあり,整形外科医のみでの疼痛治療には限界があると感じていました.
 ちょうどそのころ,当時高知大学整形外科教授であった山本博司先生が日本整形外科学会の理事長に就任され,整形外科として疼痛の分野を立ち上げると提言されたことも,疼痛を専門としていくきっかけとなりました.その後,大学病院が専門外来の立ち上げをサポートするという環境のなかで,われわれは,麻酔科,精神科,整形外科を横断した集学的な痛みの外来が必要ではないかと考え,麻酔科の先生方と集学的慢性疼痛外来を設立しました.

学際的痛みセンター設立の経緯

 痛みの基礎研究において世界的権威である愛知医科大学教授の熊澤孝朗先生が,「慢性疼痛治療には学際的治療および研究が必要である」という信念から,2002年に学際的痛みセンターを設立しました.設立当初は麻酔科の先生方のみで運営されていましたが,麻酔科としての診療があまりに多忙なため,十分に機能しているとはいえませんでした.その後,センターをさらに有効に機能させるべく,麻酔科だけでなく,整形外科も協力して学際的痛みセンターを運営すべきだという機運になりました.そこで,熊澤先生と親交が深く,以前から整形外科医が痛みも診ていくべきだとの考えをもたれていた山本先生にお話があり,2007年2月に私が学際的痛みセンターのセンター長として推挙され,就任しました.

他科スタッフとの連携

 現在,私のほかに常勤の専任医師が2名,整形外科との兼任医師が1名,および非常勤医師が2名在籍しています.さらに,臨床心理士が1名,理学療法士8名,常勤看護師1名,非常勤看護師1名で診療にあたっています.
 熊澤先生は当初,脳外科などの先生方にもセンターに集まってもらい,定期的にカンファレンスを行うことをイメージされていたようです.麻酔科とは2カ月に1回は共同ミーティングを行っていますが,脳外科や麻酔科は手術などで多忙のため,定期的にカンファレンスを開催することは難しいのが現状です.そのため,われわれ痛みセンターのスタッフが整形外科や精神科の定期的なカンファレンスに参加することによって,まず人間関係を構築し,コラボレーションしやすい環境を作っています.
 また,理学療法士は大学院生や基礎の教室の助教との兼任が多く,まだまだ専任スタッフが少ないという問題を抱えています.それでも毎週2回行うカンファレンスのほかに,火曜日の朝に抄読会を行ったり,外部講師を招いた小セミナー,あるいは年に何回かの研究会を開催することによって,スタッフのレベルアップを図っています.

痛み治療の理念

 当センターは「痛みに対して診療科・職種の壁を越えて取り組む」という理念に基づいて,集学的・統合な痛み治療の診療・研究の向上に努めています.
 受診される患者さんはとにかく痛みだけをとってほしいと受診されるのですが,あえて「痛みをとるというスタンスをとらない痛みセンター」でありたいと考えています.
 慢性疼痛は,家庭環境や社会的な問題,あるいは個人の歴史などのバックグラウンドが大きな要因となっていることが多くあります.もちろん電気刺激療法や,侵襲的な治療が必要な場合もありますが,これをやったら痛みがとれるという手技ばかりに目を向けていると,より重要な情報を見落とすこともあります.あくまで痛み治療のメインストリームは,患者教育などによって本人が考え方を変え,コントローラブルな痛みにする点であるべきだと考えています.
 痛みをとり去っても,その患者さんが幸せにならなければ意味がありません.なかには本人が意識しているわけではないのですが,痛いというから周囲が優しくしてくれるという疾病利得の状況になっていることもあります.そういう患者さんの場合,痛みがとれると困るわけです.

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