座談会(Round Table Discussion)
腹腔鏡下胃癌手術の現況と展望
胃がんperspective Vol.4 No.1, 5-11, 2011
腹腔鏡下胃癌手術は日本に最初に導入された1991年から20年が経ち,現在では広く普及してきている。開腹手術に比べて腹腔鏡下胃癌手術は歴史の浅い手術手技ではあるが,その技術の進歩や発展の速度は極めて速く,早期胃癌に対する腹腔鏡下胃癌手術の手術方法は定型化しつつある。そうした状況の中で,早期胃癌を対象に腹腔鏡下幽門側胃切除術と開腹手術を比較する無作為化臨床試験が韓国と日本で進行しており,試験の結果によっては早期胃癌に対するダブルスタンダードが確立することになる。
さらに腹腔鏡下の胃全摘術やD2郭清術,進行胃癌に対する手術など,腹腔鏡下手術の適応を広げる試みも積極的に進められている。ロボット手術も実施され,胃癌治療に大きな変化をもたらすことが予想される。
本座談会では,腹腔鏡下胃癌手術のエキスパートの先生方に,腹腔鏡下胃癌手術の現状と,定型化を目指す新しい技術をいかに効率よく安全に臨床に導入するかという視点から,今後の展望についてご討議いただいた。
(発言順,敬称略,写真左から)
宇山一朗 Ichiro UYAMA(司会)
藤田保健衛生大学医学部 上部消化管外科教授
瀧口修司 Shuji TAKIGUCHI
大阪大学大学院医学研究科 外科学講座消化器外科助教
比企直樹 Naoki HIKI
癌研究会有明病院消化器センター 医長
能城浩和 Hirokazu NOSHIRO
佐賀大学医学部一般・消化器外科 教授

宇山(司会) 腹腔鏡下胃癌手術は今後,大きく2つの方向へ同時に進んでいくと思います。1つは「腹腔鏡下胃癌手術を標準治療として普及させ一般化を目指していく方向性」です。手術手技の定型化とクオリティコントロールが重要になるでしょう。もう1つは「腹腔鏡下胃全摘術や進行胃癌に対するD2郭清術,ロボット手術といった,現在は手術手技の定型化や標準化が進んでいない領域に対し,定型化・標準化を目指す方向性」です。
今回は,この2つの方向性について座談会を通して整理していただき,将来目指すべき方向性を討議したいと思います。
1 早期胃癌に対するLADGのRCTが進行
宇山 まず「腹腔鏡下胃癌手術を標準治療として普及させ一般化を目指していく方向性」について,先生方のご意見をお伺いします。早期胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術(Laparoscopy-assisted distal gastrectomy:LADG)を取り上げて検討します。海外ではLADGはランダム化比較試験(RCT)の結果,5年生存率は開腹手術と同等という報告があります(引用文献と簡単な試験デザインをお伺いします)。韓国の試験報告では,LADG群の方がQOLはよく,合併症は同等とされましたし,また,韓国では現在LADGに関するRCTが進行中です。
瀧口 LADGは,予想以上に速やかに普及してきた印象です。手術を画像や動画で残せるため,見直して再検討したり,理想的な手術を参考に技術を高められる点も普及した理由のひとつでしょう。
宇山 LADGの普及が進んだ現在の状況で,今RCTを行う意義はありますか。
比企 RCTは,エビデンスとして必要だと思います。問題は,誰がそのエビデンスを出すかです。
宇山 わが国でもJCOG 0703試験(第Ⅱ相試験)とJCOG 0912試験(第Ⅲ相試験)が進行していますね。
比企 すでに韓国でRCTが実施されているので,JCOG 0703試験やJCOG 0912試験は追加として日本独自のデータを出すことになります。
宇山 韓国のデータは,そのまま日本に適応できるでしょうか。
瀧口 海外のRCTのデータですから日本にどう反映するかを検討する必要はありますが,技術が均てん化されつつある中で始まったRCTですから,信頼性は高いと考えています。
宇山 韓国の胃癌手術のレベル,クオリティーは高いです。データに信頼性があれば,韓国のエビデンスであっても,日本のガイドラインを検討する上で参考になると思います。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。