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涙が出る料理

第10回 京都の「おろしそば」と「鷹ヶ峰大根」

加藤弘明

Frontiers in Dry Eye Vol.16 No.1, 23-24, 2021

筆者が本稿を執筆しているのは,冬真っ盛りの師走。「冬はつとめて」と枕草子にはあるが,冬の早朝の京都で凛とした冷たい空気を感じる時季になると,筆者はある食べ物を思い出す。それは,おろしそばである。京都の銀閣寺道に鎰富弘(かぎとみひろ)(かぎ富)という蕎麦屋があり,筆者はその店のおろしそばが大好物で,子供の頃から30年以上通い続けていたのだが,非常に残念なことに2019年に閉店してしまった。かぎ富のおろしそばは,店で飲む生ビールのジョッキのようにきんと冷やした器に,冷たい手打ちのそばとつゆが入っており,その上に刻み葱,海苔,大根おろしがのっているというシンプルな一品である(図1)。大根おろしをつゆに溶き,それにそばをよくつけて勢いよくすすると,大根の鋭く軽やかな辛味が口の中に広がると同時に大根の瑞々しい香りが鼻に抜けて鼻の奥がツーンと痛くなり,じわりと涙がにじむ。筆者は涙を拭いながらも,大根の美味しさを口と鼻で堪能できる,このおろしそばが大好きであった。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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