特集 リンパ管からみたアンチエイジング
リンパ管の形成機構
アンチ・エイジング医学 Vol.14 No.2, 33-38, 2018
リンパ管は,脳,網膜,および軟骨を除く組織から溢出した液体を回収し,血液循環に戻すことにより体内の恒常性を維持している。末梢組織において毛細血管から滲出した組織液やタンパク質などを回収し,毛細リンパ管→集合リンパ管を介して血管へ戻す役割のほか,消化吸収された脂質を循環系まで運搬する役割,免疫担当細胞を産生する役割を担う。先天的な遺伝子異常や外科的治療などの物理的な刺激によってリンパ管の機能に異常をきたすと,浮腫を引き起こし,さらには免疫機能にも影響を与えることがある。こうしたリンパ管の異常は,血管の機能障害に伴う病態の重篤性から比べると緊急性が低いことから,リンパ管研究は血管研究の後塵を拝してきた。リンパ管研究が劇的に進展したのは,1995年にリンパ管内皮細胞に特異的に血管内皮増殖因子-3(vascular endothelial cell growth factor-3:VEGFR-3)が発現することが明らかとなり1),リンパ管内皮細胞やリンパ管特異的なマーカーが利用可能となった今世紀以降からである。血管とリンパ管を厳密に区別できるようになり,血管新生に重要な役割を果たすシグナル系の多くが,リンパ管新生にも作用していることが明らかとなってきた。しかしながら,リンパ管新生の全容解明には至っておらず,リンパ管内皮細胞の発生メカニズム,リンパ管が形成される分子メカニズムの詳細を明らかにして,リンパ管が関連する疾患の診断や治療法の開発につなげる必要がある。さらにリンパ管研究は,日本人の死亡原因第1位である「がん」のリンパ行性転移メカニズムを解明して転移抑制技術を開発できる可能性があり,リンパ管の発生や機能維持に関する研究が世界中で精力的に行われている。
「KEY WORDS」リンパ管新生,血管内皮増殖因子(VEGF),Prox-1,BMP,リンパ管弁
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