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特集 毛髪のサイエンス

特集にあたって

板見智山田秀和

アンチ・エイジング医学 Vol.10 No.4, 19, 2014

多くの哺乳類において, 毛髪は物理的外力からの保護, 害虫からの防御, 紫外線防御, 保温, 感覚器などとして重要に機能している. しかしながら, 人間は進化とともに体毛を失い(厳密には失ったのではなく軟毛化した), それを補うように衣類をまとい, 帽子をかぶり, 空調設備を完備せざるを得なくなった. 毛髪は, 現代では自己アピールやカモフラージュのためにしか機能していないと思われている. 一方で, 古来より洋の東西を問わず, 頭髪は個人の尊厳や人格, 権力を表すとの考えが強く, それゆえ, シュリアス・シーザーは月桂冠で男性型脱毛症を隠そうとしたし, ブルボン王朝最盛期の王とされるルイ14世は脱毛症をカモフラージュするために, 権威の象徴や装身具としてのかつらの地位を確定的にしたと伝えられている. このように頭髪は古来より人類を悩ませてきているが, 現代においても予期せぬ脱毛や抗がん剤による脱毛に遭遇した人の心理的な傷は深い(QOLの低下). また, 女性の社会進出に伴い, 頭髪の悩みを訴える方が増えてきている. それゆえ, 現代においてさえ迷信や言い伝えが多く, 発毛や育毛を謳う商品は巷にあふれかえっている. しかしながら, 男性型脱毛症や加齢に伴う脱毛, 白髪は"生理的変化であり個性である"とみなされてきたため, 病態や治療に関する研究はあまり重視されてこなかった. 一方, 毛包は生物学的には極めてユニークな組織であり, 生涯にわたり毛周期と呼ばれる組織再生と退縮のプロセスを自立的に繰り返す生体唯一の組織である. この毛包の発生と再生は上皮-間葉相互作用によりなされることは古くから知られていたが, 近年の分子生物学の進歩は, 従来形態でしか語ることができなかった毛髪についての謎を分子レベルで解明することを可能にしてきている. 本特集では, 毛髪について正常な発生と再生, 毛包の老化と白髪, 男性型脱毛症の病態と治療, そして毛包細胞やiPS細胞による再生医療などさまさまな話題を取り上げ, その専門家に執筆していただいた. これを一読いただくことで, 読者の方々がキャッチコピーに惑わされることなく, 毛髪のサイエンスについて知識を深めていただけるものと確信している. 最後に, ご多忙のなか, 本特集にご執筆いただいた先生方に改めて感謝いたします.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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