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対談

動物モデル

水谷仁塩原哲夫

皮膚アレルギーフロンティア Vol.9 No.1, 44-52, 2011

動物モデルはあくまでモデル
水谷(司会) 本日は「動物モデル」をテーマに,とくにアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)の動物モデルを中心にお話をうかがっていきたいと思います.
 ADについて,動物モデルを用いて研究を進める場合,一番問題となるのは“動物モデルと人間の皮膚の構造が違う”点になるのでしょうか.

塩原 そうですね.一般的に動物モデルといえば大体マウスを使いますが,そのマウスとヒトの皮膚の大きな違いは,足蹠を除くマウスの皮膚には汗腺がないことです.そのため私は,苔癬型組織反応を誘導するT細胞クローンの実験を足蹠で行いました.ただ,あとから考えると,足蹠には汗腺はあるのですが,その反応を抑制するような樹状表皮T細胞(dendritic epidermal T cell;DETC)が存在しないこともこの実験がうまくいったポイントだったように思います.

動物モデルはあくまでモデル(続き)

水谷 今では耳を用いた動物モデルが全盛になっていますが,以前はかなり足蹠も使われていましたね.現在,足よりも耳のほうが用いられることが多いのはどうしてだとお考えですか.
塩原 経時的に観察しやすいのと採取のしやすさから耳を用いていると思います.しかし耳で得られるデータは汗腺のない部位のデータであることを忘れてはいけません.ヒトの皮膚には必ず汗腺が存在することを考えれば,むしろ足蹠の皮膚を用いたほうが人間には近いと思います.
水谷 しかし人間の場合でも,手掌や足蹠の皮膚は普通の皮膚と比べて表皮や角層が厚いという構造上の違いがあります.この点はいかがでしょうか.
塩原 掌蹠膿疱症という疾患もありますが,ADでは比較的掌蹠には皮疹が出にくいですね.逆を言えば,掌蹠にはADに対して防御的に働く何かがあるのかもしれません.
水谷 防御的なものがある場合,その閾値が高いものは内因的な要素と考えられますか,それとも外から入りにくいと思われますか.
塩原 これほど角層が厚いところはほかにはないですし,毛囊もありませんので,まず外からアレルゲンが入りにくいことが一番だと思います.
 このように,マウスでは人間とまったく同じ病変が再現できているわけではないため,どこの皮膚を使い,それをどのような方法を用いて解析しているのか改めて認識しておくべきだと考えます.
 ADの動物モデルで言えば,湿度も重要です.地球温暖化と言われますが,実は湿度の低下のほうがもっと問題なのです.皮膚病変との関連で言えば,乾燥や砂漠化のほうが温暖化よりもっと問題なのではないかと感じます.
水谷 日本でも砂漠化しているのですか.
塩原 東京では温暖化以上に湿度の低下による砂漠化が年々激しくなっているようです.
水谷 すべての部屋にエアコンがある時代ですから,東京の場合は外の環境でさえつくられているものと言えるかもしれませんね.
塩原 人間の置かれている環境は一応春夏秋冬があるにもかかわらず,マウスの飼育環境は1年中気温や湿度が一定なので,そこでのデータであることを理解しておくべきだと思います.マウスを人間と同じような湿度の変化の多い環境で飼ってみると,まったく違う結果になるのではないでしょうか.
 人間と違う構造の皮膚を使い,違う湿度,温度の環境で出されたデータを,われわれは「動物モデル」といっているわけです.そのことをつい忘れがちになるのが問題かもしれませんね.

動物モデルはなぜ必要か

水谷 では,塩原先生はなぜ動物モデルが必要だとお考えですか.
塩原 治療効果をいろいろと検討する際の参考とするために,あるいは病態を解明するために必要である,ということになるでしょう.しかし個人的には,動物モデルは病変が生じるには最初に何が起こるのかを観察するために必要であると思っています.
水谷 それが“塩原モデル”をつくられた動機なのですね.われわれが診ている患者さんは,何かが起こっている途中で受診してくるわけではないですからね.
塩原 本当は患者さんが病院に来る前に何が起こるかを知ることこそ大事なわけです.しかし現状は患者さんの来院時の症状や検査結果をみて診断していますが,実はそれは炎症を制御する過程での失敗をみているのに過ぎないのかもしれませんね.
水谷 しかも塩原先生の場合は,すべての研究において普通に人間が置かれている状況に最も近い過程を再現させようというスタンスをとられていますよね.

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