Young Investigator's Award
【基礎 最優秀賞】テラトーマ形成を介した人工多能性幹細胞からの機能的な造血幹細胞の分化誘導
A novel in vivo differentiation system of transplantable hematipoietic stem cells from iPSCs through teratoma formation
再生医療 Vol.10 No.4, 63-67, 2011
Summary
Induction of in vitro differentiation of pluripotent stem cells into hematopoietic stem cells (HSCs) has been unsuccessful thus far. Here we demonstrate a unique in vivo differentiation system yielding engraftable HSCs from mouse or human induced pluripotent stem cells (iPSCs) through teratoma formation facilitated for hematopoiesis. We first showed that mouse iPSC-derived HSCs migrated from teratoma into bone marrow of teratoma-bearing mice and contributed to multilineage reconstitution in serial transfers. We then showed that immunodeficiency in X-SCID mice could be treated by induction of teratomas derived from gene-corrected iPSCs.
Moreover, application of this method successfully generated transplantable human iPSC-derived HSCs. No recipient mouse developed leukemias or tumors after transplantation of iPSC-derived HSCs. The teratoma-mediated HSC induction system presented here may create new opportunities for practical uses of iPSC-derived HSCs in the treatment of hematologic and immunologic diseases.
KEY WORDS
人工多能性幹細胞[induced pluripotent stem cells(iPS 細胞)]/造血幹細胞/テラトーマ
はじめに
現在,白血病やその他の血液疾患について造血幹細胞移植が有効な治療手段として用いられているが,一方で造血幹細胞移植は慢性的なドナー不足や生着不全などの深刻な問題を抱えている。そのため,再生医療の分野では体外で造血幹細胞を増殖させる技術や造血幹細胞を作製する技術の開発に期待が寄せられている。しかし,機能的な造血幹細胞をex vivoで無限に増殖させることはいまだに困難である1)。
近年,体細胞のダイレクトリプログラミング技術は,患者自身から胚性幹細胞(embryonic stem cells : ES細胞)とほぼ同等の能力をもつ多能性細胞を樹立することを可能にした2)3)。この人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells : iPS細胞)は,自己複製能と増殖能を併せもち,さまざまな血液細胞にも分化することが可能である。したがって,iPS細胞をin vitroで造血幹細胞に分化させる技術を開発すれば移植治療に用いることができ,再生医療の実現が大きく前進すると考えられている。これまでに,多能性細胞から造血幹細胞への分化誘導に関する知見は多数報告されている。マウスES細胞については,HoxB4を強制発現させることで移植可能な造血前駆細胞をin vitroで分化誘導できることが報告された4)-6)。しかし,遺伝子を導入することなくES/iPS細胞から移植可能な造血幹細胞を分化誘導した例はない。本稿では我々が開発したテラトーマ形成を用いたiPS細胞からの造血幹細胞誘導法を紹介する。
テラトーマを用いたiPS細胞からの造血幹細胞誘導法
我々は,iPS細胞を造血幹細胞に誘導させる場所としてテラトーマに着目した。テラトーマは,ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を免疫不全マウスに移植した際に得られる良性腫瘍であり,三胚葉系のさまざまな組織へ分化した細胞が含まれている。すでに過去の知見により,テラトーマやテラトカルシノーマの中にはES細胞由来の赤血球,巨核球などが形成されることが報告されている7)8)。そこで我々は,テラトーマを作製する過程で造血幹細胞の維持に必要とされるサイトカインや造血を支持するストローマ細胞を投与することで,テラトーマ内にiPS細胞由来の造血幹細胞を誘導できるのではないかと考えた。また,成体内の造血幹細胞は骨髄にホーミングする特性をもつことから,テラトーマ中に誘導したiPS細胞由来の造血幹細胞もホストマウスの骨髄に移行しうるのではないかと仮説を立てた(図1A)。
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