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基礎(インフルエンザ)

H1N1pdmは,スペインかぜの進化の歴史を繰り返すのか

杉田繁夫

インフルエンザ Vol.17 No.3, 45-54, 2016

2009年にブタインフルエンザウイルス由来のA/H1N1pdmによるパンデミックが起こった.その後,2015/2016冬シーズンまでワクチン株の変更はなくA/California/7/2009株がワクチン株として用いられてきた.一方,H3N2株は毎年のようにワクチン株が変更されている.この違いは,頭頂部にある糖鎖の有無ではないかという仮定をもとに,よく知られている1986年のH1N1ウイルスのドリフト変異を進化学的に解析した.その結果,1986年にHAの糖鎖構造の大きな変化があり,それにともなって抗原決定基はポジティブセレクション,つまり,変異ウイルスを優位に選択している可能性が示唆され,糖鎖構造の変化が抗原決定基に大きな影響を与え,それがドリフト変異に繋がる可能性が考えられた.ところで,H1N1pdmウイルスのHAは,2015/2016冬シーズンに162番目のアスパラギンへのN型糖鎖付加シグナルが形成されていることがわかった.この162番目のアスパラギンのN型糖鎖は,A/Wilson-Smith/1933と同じ場所に糖鎖シグナルが付加されている.系統樹解析によると1918年のスペインかぜウイルスの最初の頭頂部の糖鎖は1926年以前にさかのぼると考えられた.1918年から8年後までにN型糖鎖が162番目のアスパラギンに付加されたという計算結果は,2009年からおよそ7年後の2016年に162番目のアスパラギンに糖鎖が付加されたことと時間的経過がきわめて似ていることになる.その後,1940年代のウイルスまで存在し,昔の分類に従えば,Hsw亜型とH0亜型の大きな抗原性の差となったと考えられる.A/H1N1pdmウイルスは,1918年のスペインかぜとの相同性が高く,スペインかぜウイルスと同じ場所に,ほぼ同じ時間経過をたどり,最初のN型糖鎖シグナルが付加されたことは単なる偶然とは思えず,今後のウイルスの進化,抗原性の変化には注目する必要がある.
「Key Words」H1N1pdm,糖鎖構造,ドリフト変異,ポジティブセレクション,分子進化

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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