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巻頭言

H7N9の出現

菅谷憲夫

インフルエンザ Vol.14 No.3, 7, 2013

季節性インフルエンザになったH1N1/09が抗原変異を起こすと, 高齢者が罹患し重症化する懸念があり, それこそが, 来シーズン以降の最重要課題と考えていた. ところが, 突然, 本年4月に鳥インフルエンザウイルスH7N9の感染が報告された. 私としては青天の霹靂であった. というのは, H7N9は重症の鳥インフルエンザというだけではなく, パンデミックを起こす可能性が高いと考えられたのがその理由である. 私は, H5N1がパンデミックを起こす可能性はほとんどないと考えていて, 「恐怖のH5N1」とか「最強ウイルスH5N1」という一部マスコミのキャンペーンを一貫して批判してきた. その流れで成立した新型インフルエンザ等特措法には多くの問題がある. たとえば, 外出や集会の制限は, その有効性が証明されていないうえに, H1N1/09パンデミックで世界的に証明されたノイラミニダーゼ阻害薬による早期治療体制が混乱して, 逆に, 多数の死亡例が出る危険性が大きい. H7N9でも, 数件の家族内感染は報告されているものの, 患者の接触者2,000名以上について調査したところ感染はみつからず, 現時点で, ヒト→ヒト感染はないとされている. しかし, 遺伝子からみて, H7N9ウイルスは, ヒトに感染しやすく変異する危険性は高い. 中国でみられたような鳥→ヒト感染が, 日本で起こる可能性は, 生きた鳥を扱うマーケットがないのできわめて低いが, H7N9のパンデミックにはできる限り備えが必要であろう. 生きた鳥や動物を扱うマーケットを閉鎖後, H7N9患者発生が減少したことは, 中国当局は公衆衛生的な対策の成果としているが, H5N1の経験からは, 夏になると感染が減り, 冬に増加するというパターンをとっているだけかもしれない. いずれにしろ, インフルエンザ専門家はH7N9がこのまま消滅するとは考えていない. H1N1/09パンデミックでは, 世界で最も死亡者数の少なかった日本ではあるが, 患者からノイラミニダーゼ阻害薬耐性のH7N9ウイルスが検出されている状況を考えると油断は禁物である. これからは, H7N9によるパンデミックの可能性も考えて, 診断治療, 予防法などの検討を進めるべきであるが, その先陣を切ったのが, 日本感染症学会の提言である. H7N9の治療として, オセルタミビルやペラミビルの倍量投与などが提案されている(http://www.kansensho.or.jp/influenza/1305_teigen.html). ご一読をお願いしたい.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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