<< 一覧に戻る

喘息/COPDの基礎研究最前線

TSLP遺伝子多型と気管支喘息

玉利真由美冨田かおり広田朝光

International Review of Asthma & COPD Vol.13 No.3, 21-26, 2011

 近年,自然免疫の病原体認識機構とその活性化メカニズムの解明が進み,ウイルス感染やプロテアーゼの認識からTh2免疫の始動および増幅に至る分子機構が明らかとなってきた.TSLPは,ウイルス感染,ダニ,アルテルナリア,喫煙などの環境要因により気道上皮において強く誘導され,Th2免疫応答を誘導する.われわれは,TSLPのプロモーター領域の遺伝子多型が気管支喘息の発症に関連すること,そしてリスクアレルがTSLPの転写活性亢進に影響すること,そして気管支上皮細胞におけるpoly I:C(合成2本鎖RNA[dsRNA],ウイルス感染疑似物質)によるTSLPの誘導がグルココルチコイドと長時間作用型β2刺激薬(サルメテロール)の同時投与により相乗的に抑制されることを報告した.急性増悪の主因であるウイルス感染時にTh2免疫応答を発動するTSLPの誘導を抑制する効果は,配合剤の治療効果のメカニズムの1つであると考えられる.

はじめに

 アレルギー疾患は遺伝要因と環境要因とが複雑に関与して引き起こされる炎症性疾患である1).このうち遺伝要因の解明は,ヒトゲノム解析研究の進展に伴い急速に進んでいる.鼻腔から咽喉頭,気管,気管支,肺胞に至る気道は,空気の通り道であり,感染の現場であり,吸入抗原の通り道であり,共通の環境要因の影響を受ける.特に上皮細胞や粘膜に存在する樹状細胞,マクロファージは環境と接する最前線の細胞であるため,大気汚染,黄砂,喫煙,感染や大量の吸入抗原(花粉,カビ,ダニなど)などを感知し,それらに応じた反応を惹起する.気道上皮細胞は物理的なバリアとしてだけでなく,感染やプロテアーゼに応答しTSLP(thymic stromal lymphopoiten)をはじめとするサイトカインを産生する2,3).吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid;ICS)は気管支喘息治療の第一選択薬であるが,気道上皮細胞,樹状細胞,マクロファージはその薬剤効果の標的細胞としても注目されている.TSLPはインターロイキン(Interleukin;IL)-7ファミリーに属するサイトカインであり,マウスモデルやヒトアトピー性皮膚炎および気管支喘息において,好酸球浸潤を伴う局所のアレルギー炎症へ関与することが示され,アレルギー炎症の重要なイニシエーターの1つと考えられている4).TSLPはウイルス感染(ライノウイルス,RSウイルス),炎症性サイトカイン(IL-1β,TNF[tumor necrosis factor],IL-4,IL-13,IL-25),喫煙,アルテルナリア,ダニ抗原により気道上皮細胞より産生され2,4-8),CD4+Th2細胞,好塩基球,マスト細胞などのエフェクター細胞を介して気道炎症を惹起する.本稿ではTSLPと気管支喘息との関連について最近の知見を中心に述べる.

TSLPとアレルギー疾患の関連解析

 人口の1%以上の頻度で存在する遺伝暗号の違いは遺伝子多型(SNP)と定義され,それらが病気へのかかりやすさや,重症度,薬剤の効果や副作用の出やすさ等に関与していると考えられている.ゲノム解析技術の進展により,遺伝子多型を用いた症例対照関連解析が迅速に行われるようになってきた9).病態に関連する遺伝子群が明らかになることにより,病態の科学的解明が進み,適切な予防法や薬物の選択法が確立されていくことが期待される.近年,好酸球性食道炎のゲノムワイド関連解析が行われ,TSLPを含むゲノム領域が疾患関連領域として同定された10).さらに,好酸球性食道炎の病変部の生検組織で,正常組織に比べTSLP遺伝子発現が増強していることも示され,好酸球性炎症にTSLPのSNPが遺伝要因として重要であることが示された10).このTSLP遺伝子の存在するゲノム領域(連鎖不平衡ブロック)は,他のゲノムワイド関連解析により末梢血好酸球数に関連する領域として報告されており興味深い11).また,欧米において,TSLPと気管支喘息との関連解析が4つの独立に収集された集団(5,565名)を用いて行われている.その結果,TSLPの転写開始点から5.7kb上流にある遺伝子多型rs1837253と気管支喘息(p=0.0058),アトピー型喘息(p=0.0074),気道過敏性(p=0.0094)との関連が報告されている12).

TSLPの遺伝子多型と気管支喘息関連解析

 われわれはTSLP遺伝子多型と気管支喘息の病態との関連について,症例対照関連解析を行った13,14).われわれは日本人24人についてTSLP遺伝子周辺領域,転写開始点から上流4.1kb(5’側),また遺伝子下流1kb(3’側)についてSNPsの探索を行った.その結果,23カ所のSNPsを見出した.このうちアレル頻度が5%以上のSNPsは7個存在した.連鎖不平衡を考慮し,3つのTag SNPs(rs3806933,rs2289276,rs2289278)(図1A)について関連解析を行った.

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る