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血栓と循環の検査法

第49回 血管内皮機能シリーズNo.14 内皮由来過分極因子の医学的意義

下川宏明神戸茂雄

血栓と循環 Vol.20 No.2, 77-81, 2012

はじめに
 血管内皮細胞は,内皮由来弛緩因子(endothelium-derived relaxing factor:EDRF)と総称される複数の血管弛緩因子を産生・遊離し,血管恒常性の維持に重要な役割を果たしている1)2)(図1).このEDRFには3種類の因子が知られており,これまでにプロスタサイクリン(prostacyclin:PGI2)と一酸化窒素(nitric oxide:NO)は同定され,一部治療薬への臨床応用も行われており,その重要性は広く認知され,その発見者に対して各々ノーベル賞が授与されている.そして第3のEDRFが,本稿で取り上げる内皮由来過分極因子(endothelium-derived hyperpolarizing factor:EDHF)である.

本稿では,このEDHFの医学的意義や内皮機能検査に関して,最新の知見を交えながら述べる.

EDHFとは

 EDHFとは,PGI2およびNOの合成を阻害した条件下でもなお残存する内皮依存性の血管弛緩反応を生じる因子で,血管平滑筋の過分極反応を介して血管平滑筋を弛緩させる因子と定義されている.その産生および作用機序は,血管内皮細胞に対する種々のアゴニストや血流によるずり応力の刺激により,血管内皮細胞でカルシウム・カルモジュリン依存性に産生・遊離され,血管平滑筋に作用して血管平滑筋のカルシウム活性型カリウムチャネルを開口し,同細胞膜を過分極させることにより細胞内カルシウムが減少し,血管平滑筋の弛緩を惹起するものである.
 興味深いことに,NO,PGI2,EDHFの3者は,血管径に応じてその弛緩反応への寄与度が大きく異なっていることが知られている3)4)(図2).

すなわち,NOは比較的太い血管(導管血管)における弛緩反応に大きく寄与しているが,血管径が細くなるにしたがってEDHFの寄与度が高まり,微小血管(抵抗血管)においてはEDHFによる弛緩反応が主となる.他方,PGI2の寄与度は他者より小さいが,血管径によらずほぼ一定の関与がある.そしてこうした現象は,動物種や血管床を問わず,普遍的に認められる.したがって,EDHFの重要性は臓器血流を規定する抵抗血管において特に大きいといえる3)4).
 さて,こうした特徴を有するEDHFであるが,その本体に関しては諸説があり,定説を得るには至っていない.EDHF本体に関する代表的な仮説としては,①アラキドン酸から産生されるepoxyeicosatrienoic acids(EETs)とする説,②カリウムイオンとする説,③ギャップ結合を介する電気的伝播であるとする説,④そしてわれわれが提唱している過酸化水素(hydrogen peroxide:H2O2)とする説がある5).いずれもそれ単独では説明のできない動物種あるいは血管床が知られており,複数のEDHFの存在が示唆されている.次節では,われわれが世界で先駆けて同定したEDHFの本体としてのH2O2説について述べる.

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