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メタボリックシンドロームと排尿障害

メタボリックシンドロームと過活動膀胱

鈴木康之古田昭

排尿障害プラクティス Vol.19 No.1, 7-10, 2011

 メタボリックシンドロームは,インスリン抵抗性と内臓脂肪蓄積を基本として粥状動脈硬化から脳血管障害や狭心症などの虚血性心疾患などを惹起する,内科の分野に属するとみられてきた病態で,脳梗塞などに発展しないかぎり排尿障害とは無縁との認識もあった.しかし,近年の検討によりメタボリックシンドロームそのものが過活動膀胱などの排尿障害に深く関連していることが明らかになると同時に,各種排尿障害は下部尿路疾患という側面だけでなく全身疾患の一部分症状でもあるという病態の側面が明らかになってきた.また,メタボリックシンドロームの予防をはじめとする生活習慣の節制と内科的全身管理が,排尿障害予防になる可能性も示唆されるようになった.

Key words
メタボリックシンドローム,過活動膀胱,下部尿路症状,排尿障害,動脈硬化

はじめに

 ある著明な医学雑誌を飾った泰斗の巻頭言に,現在の医学で最も不足しているものは「加齢研究」と「複数診療科の横断研究」と記載されていた.急速な人口高齢化で,患者の多数が高齢化しているため,日常診療で加齢を念頭におかないと診断と治療選択に誤りを生じる事態となりつつあるのは実感される.個々の疾患本来の姿は加齢で修飾され,われわれの前に現れる.また,従来の標準治療が加齢により適用できないことも少なくない.これは排尿障害患者の爆発的増加と無縁ではなく,排尿障害そのものが他疾患にさらに加齢が影響を与えた結果であったり,加齢そのものの裏の顔であることを臨床医は認識すべきと考える.
 また,医学の細分化で疾患や病態を「ある臓器の疾患」と捉えることによりさまざまな進歩があったと同時に,個々の患者を疾患でなく病人としてみる姿勢から遠ざかってしまったのも事実である.慈恵医大では学祖が「病気をみずして病人をみよ」という名言を遺したといわれている.その意味合いは浅学非才な私には十分な解釈がつけられないが“診断治療では疾患の局所臓器だけではなく患者の心理を含めた全身にも……注意を払う必要がある”という意味だと教えられた記憶がある.しかし,排尿障害の臨床において局所疾患も,全身の要素を取り入れないと病態診断を誤るという点は深く実感している.特に排尿障害は「下部尿路疾患」であると同時に「加齢の結果」であり「全身疾患の一部分症状」でもある点を実感する今日この頃である.

Ⅰ 排尿障害と動脈硬化

 近年の排尿障害研究の多くは主に下部尿路疾患という観点から検討され,著しい進歩と成果を上げてきた.しかし一方で,説明困難な病態や治療効果の予測が十分にたてられないことなどへの疑問が残された1-3).その答えのひとつが「高齢者の排尿障害や性機能障害の主因は加齢であり」「下部尿路障害は重要であるが,それをもたらす要因のひとつにしかすぎない」というものであると感じている.
 その典型例は夜間頻尿 1,4)である.夜間頻尿は下部尿路疾患であると同時に加齢がその主因として関与し,さらに加齢に伴う睡眠障害5)や腎機能障害なども表裏一体の病態として関係しているため,排尿障害治療による夜間頻尿の改善はしばしば不良である.対象患者によっては睡眠時無呼吸6),心不全やむずむず脚症候群(下肢静止不能症候群,レストレス・レッグズ症候群)5)などが重要な要素になっている場合が多々ある.これらの病態を解き明かし,いわゆる「エビデンス」を構築するには内科や精神科などの他科との,多科による横断的な大規模臨床試験が必要である.しかし,その研究の素地すら整備されていないのが現状である.
 この状況は過活動膀胱にも当てはまる.過活動膀胱は,原因不明とされながらもその原因となる中枢神経疾患,下部尿路障害,骨盤底脆弱化や加齢がガイドラインに記載されているが,それらの疾患は動脈硬化と表裏一体の関係でもある.
 内科領域では1980年代後半から動脈硬化性疾患のリスクが増大する病態として,シンドロームX,死の4重奏,内臓脂肪症候群,マルチプルリスクファクター症候群などの概念が次々に提唱され注目を集めていた.その後,こうした症候群を構成する各要素の重複には,共通病態である内臓肥満とインスリン抵抗性があり,その根本には過食や運動不足などの生活習慣の乱れが存在することが明らかとなった.内臓脂肪蓄積である肥満とインスリン抵抗性という共通病態を基本として高血圧,脂質異常,高血糖などが重なり,動脈硬化症に基づく脳血管疾患や虚血性心疾患のリスクが増大する疾患であるメタボリックシンドロームの概念が形成された7).メタボリックシンドロームの診断基準については,国際的にはWHO,米国コレステロール教育プログラム(NECD)や国際糖尿病連合(IDF)や日本内科学会のものなどがありそれぞれに基準が分かれているが,その基本概念は同一である7).
 動脈硬化症による脳血流低下は,中枢神経機能を障害しその支配臓器である下部尿路の機能を低下させるのみならず,下部尿路局所の血流低下を来し蓄尿・排尿の機能を障害する.そのひとつの病態が過活動膀胱と考えられる.

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