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特集 神経システムと循環器疾患

基礎 認知症と循環器疾患

猪原匡史

CARDIAC PRACTICE Vol.30 No.1, 17-21, 2019

認知症研究がアルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)を中心に展開し,認知症を神経細胞の機能異常といういわば「単純系」に落とし込んで理解しようとする立場が限界を迎え,認知症研究にパラダイムシフトが求められている。脳は全身の20%近い血液を必要とする臓器であり,循環障害が認知症に直結することに異を挟む余地はない。英国CFAS研究では,1989~1994年の1次コホートより,2008~2011年の2次コホートで認知症患者が3割減少したことが報告され,“What’s good for your heart is good for your head”というスローガンを掲げた英国の対認知症国家戦略の勝利とも解釈されている1)。さらに,循環器病の「危険因子」という言葉を生み出した米国フラミンガム心臓研究から,最近30年間で認知症が44%減少したことが報告された2)。さらに,SPRINT研究のサブ研究(SPRINT MIND研究)で,厳格な血圧管理が軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の発症を有意に低下させることが発表され,認知症診療に循環器病危険因子の管理を行うことは今や世界の趨勢といってよいだろう3)。高齢者のADを含む神経変性疾患では,脳血管病変を高率に伴い,たとえば80歳以上のADでは8割を超える4)。これらのエビデンスは,神経変性疾患に合併する脳血管病変,すなわち「混合型」変化を的確に捉え,適切に治療することがADも含めた全認知症の予防につながる可能性を強く示唆している。
「KEY WORDS」認知症,アルツハイマー型認知症,血管性認知障害,アミロイドβ,混合型認知症

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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