特集 循環器疾患を見据えた糖尿病治療戦略
基礎 心不全と糖尿病
CARDIAC PRACTICE Vol.29 No.3, 17-22, 2018
1970年代に初めて糖尿病性心筋症の症例報告がなされて以来,糖尿病患者では心不全発症率が,糖尿病を合併しない心不全患者に比べ有意に高いことや,同様に,CHARM試験をはじめとする慢性心不全の無作為大規模臨床試験のサブ解析結果から,糖尿病をはじめとする糖代謝異常の有病率は心不全患者で有意に高く,心不全のタイプ[すなわちheart failure with reduced EF(HFrEF)かheart failure with preserved EF(HFpEF)か]や虚血性心疾患の合併の有無とは独立して,糖尿病が心不全発症のみならず心不全患者の生命予後悪化リスク因子であることが報告されてきた1)-3)。しかしながら,心不全における糖尿病治療介入の臨床的意義や診断基準については,それらの根拠となるエビデンスに関し包括的なコンセンサスが得られない未確定な状態が長年継続していた。このような混沌とした時代ののち,心血管安全性試験として実施された糖尿病治療薬SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの無作為前向き大規模臨床試験(randomized controlled trial:RCT)結果から,改めて心不全は糖尿病患者の生命予後を規定する重要な合併症であることが明示された4)。これ以後,双方向性に影響を与え合う心不全と糖尿病の病態解明に対しさらなる注目が集まっている。その作用機序については諸説あり,いまだ不明な点も残されている。本稿では,心不全と糖尿病の病態に関する現時点での知見を,基礎的機序を中心に解説してゆく。
「KEY WORDS」糖尿病,心不全,心筋症
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