<< 一覧に戻る

リレーエッセイ―“痛み”の周辺から―

(20)日本の病院を回り歩いての印象から

武田文和

がん患者と対症療法 Vol.22 No.1, 64-66, 2011

国内の多くの医療機関から得ている印象
 私は全国各地で医療担当者と討議する機会に恵まれてきた。その際に感じるのは,がんの痛み治療のノウハウをよく理解している医療担当者がいる病院が増えていることである。しかし一方,建前論は口にするが治療法の理解が浅く,しかも院内の専門知識豊富な同僚医師も活用していない医師が多いことにも気づく。「痛みから解放されずに苦しんだ」との患者や家族からの声もよく聞く。

日本を海外からみると

 そんな状況を率直に反映した医療用麻薬(オキシコドン,モルヒネ,フェンタニルなど)の年間消費量の国連による統計があり,それによると単位人口あたりの年間消費量が最も少ない先進国が日本である。指数としてみると,米国335,ドイツ130,オーストラリア75,日本はわずか7だ(ニューヨークタイムズ2007年9月10日版)。日本は経済的に豊か,医療水準は一流,医療保険制度も充実し鎮痛薬が健康保険で使える,国民死因の第1位はがんと知っている海外の人々は,「日本人のがんは痛みを起こさない人種的特性でもあるのか」と思うそうである。
 しかし,日本の医療用麻薬消費量が少ない真の原因は,がんの痛みの治療法のノウハウを十分に活用していない医師が多いことのようだ。ニューヨークタイムズでも,「がんの痛みからの解放に医療用麻薬は不可欠と日本で使用が推奨され,実際に使用が増え,不正流用事件の増加がないという手本になるような状況はあるが,医療界での普及速度がゆっくりすぎる」と述べられている。がんの痛み治療の成果を早急に改善させるべきとの国内の声は大きいし,法的にも指示されている。最新知識ばかりでなく,基本知識の普及活動の強化が急務だ。

がんの痛み治療の基本知識の再確認を

 私は全医療職参加型の勉強会に招かれたときには「がんの痛み治療の基本知識」を話すことに力点をおき,複雑な内容の新知識は質疑応答のときに解説することにしている。基本知識を再確認してくれた医師の多くが,「私も実践してみる気になりました」との感想を伝えてくれる。参加している知識豊富な医師にとっては,予習となるよう心がけて話す。以下,その際の私の話の骨子をまとめるので,参考にしていただきたい。

1.がんの痛み治療の倫理的背景

 がんの痛み治療の倫理的背景から話し始め,がんの痛み治療を受けられずに苦しんできた患者の姿と,経口モルヒネなどにより痛みが消失した患者の笑顔の姿の落差を供覧する。倫理では「がん患者には,痛みを治療するために十分量の鎮痛薬を要求する権利があり,医師にはそれを投与する義務がある。痛みを消失させる治療を実施しない医師は,倫理的に許しがたい」と指示するWHOの勧告文を紹介する。次いで,WHO方式がん疼痛治療法が示す基本原則を忠実に守りながらチームで鎮痛薬治療を推進して得た除痛率86%を紹介し,それが1980年代の日本で実現しており,その際に痛みの80%にはモルヒネが必要となったことを示す1)。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る