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がん疼痛緩和対策のアドバイスQ&A

Question 1 がん患者の抑うつを適切に診断して治療的介入を行うためには,どのような点に留意すればよいでしょうか。

武田文和下山直人

がん患者と対症療法 Vol.22 No.1, 52-57, 2011

Answer 1
 抑うつは,多くのがん患者が経験する心理・精神的症状です。多忙ながん治療の現場で患者の心理状態に細かく配慮することは困難ですが,普段の行動を見守り,身体的・精神的な変化を見逃さないことが大切です。気持ちのつらさを引き出すためには「傾聴」が基本であり,「開かれた質問(open-ended questions)」を用いることで患者の精神状態を把握することができます。また,抑うつをアセスメントするための簡便で効果的なツールも考案されています。精神療法や薬物療法が必要と考えられる場合は,精神科医にコンサルテーションを依頼するようにしましょう。

1.がん患者の抑うつが見過ごされやすい理由

 がん患者における抑うつの発現頻度は10~25%と報告されており,機能障害,がん病変の増悪,痛みの増強に伴って発現率は上昇しますが,多くの身体症状とは異なり終末期に入って発現率が上昇する傾向は認められないことが明らかにされています1)。むしろ,がん病変の治療のみが行われているもっと早い時期に発症することが少なくありません。また,全病期にわたるがん患者の精神的問題を調査した報告では,47%の患者に何らかの精神医学的診断がなされ,そのうち13%(全体の6%)が大うつ病の診断基準を満たし,比較的軽度の抑うつや不安を呈する患者(適応障害)も含めると,81%(全体の38%)の患者に精神的問題が認められました2)。このように,抑うつは多くのがん患者が経験する心理・精神的症状の1つです。
 がん患者の抑うつは,強い心理的ストレスに起因する適応障害が誘発する抑うつと大うつ病の2つに大別され,いずれの場合も的確な診断と治療的介入が必要です。しかし,実際には抑うつの症状が医療従事者の視点から隠されてしまうことが少なくありません。緩和医療のテキストにはがん患者の抑うつが見過ごされやすい理由が具体的に示されていて3)(図1),多忙ながん治療の現場では患者の心理状態に細かく配慮する時間的な余裕がないこと,患者自身がつらい気持ちを言葉として表現するのが難しいことなどが指摘されていますが,特にがんおよびがん治療に伴う症状の多くが大うつ病の診断基準と重なってしまうことが大きな問題です。

 大うつ病の代表的な診断基準であるDSM-Ⅳ(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th Edition;精神疾患の分類と診断の手引 第4版)では,「抑うつ気分」もしくは「興味または喜びの喪失」のいずれかを含み,9項目中5項目の症状に該当し,症状が2週間以上続いている場合,大うつ病と診断されます4)(表1)。

しかし,9項目のうち「体重または食欲の減少あるいは増加」「不眠または睡眠過多」「易疲労感または気力の減退」「思考力や集中力の減退」という4項目は,がん患者において一般的に認められる症状でもあるため,これらの症状が顕在化していても抑うつと認識されないまま放置されてしまうことがあります5)。

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