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脂質メディエーター最前線

脂質メディエーター

Lipid mediators

濵﨑雄平山本修一

喘息 Vol.24 No.2, 12-17, 2011

Summary
 生体膜の脂質を基質として産生される脂肪酸代謝物のうち,ω-6不飽和脂肪酸であるアラキドン酸(AA)を基質として産生されるプロスタグランジン(PG),ロイコトリエン(LT)は,アレルギー疾患をはじめとする種々の疾患で重要な炎症性メディエーターとして作用している。リポキシン(LX)はAA代謝産物であるが,抗炎症性・消炎症性に作用し,ω-3不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)より合成されるレゾルビン(Rv)やプロテクチンも抗炎症性・消炎症性メディエーターとして作用する。これら脂質メディエーターの調節機構や生理的役割の解明は,創薬や治療への道を開くものである。

Key words
アラキドン酸,エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸,プロスタグランジン,ロイコトリエン,リポキシン,レゾルビン,プロテクチン

はじめに

 血管障害,腫瘍・癌,膠原病,神経疾患,アレルギー疾患をはじめとする種々の疾患の病態には急性・慢性の炎症が関与しており,脂質由来活性物質は炎症を調節するケミカルメディエーターとして重要な役割を果たしていると考えられている。生体膜の構成リン脂質を基質として産生される脂肪酸代謝物には,血小板活性化因子(platelet activating factor;PAF),リゾフォスファチジン酸(lysophosphatidic acid;LPA),セラミドなどをはじめとして多くの物質が知られているが,なかでも重要なものは,ω-6不飽和脂肪酸であるアラキドン酸(arachidonic acid;AA)を基質として産生される一連の脂質メディエーターである。また,近年ω-3不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;EPA),ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid;DHA)を基質とする代謝産物も抗炎症・消炎性メディエーターとして注目されている。

Ⅰ アラキドン酸シクロオキシゲナーゼ代謝物

1.プロスタグランジン

 脂質メディエーターの研究は,プロスタグランジン(prostaglandin;PG)の研究によりその幕を開けた。1930年代に,ヒツジ精囊中に高濃度で存在し,脂質由来ではあるが構造が不明の活性物質でPGと命名されていた物質が,1957~1960年にかけてBergströmらにより単離され,5員環を有する炭素数20の物質であるPGEとして化学構造が解明された1)。その後,これらの物質が必須脂肪酸であるAAから生合成されることが発見され2),1960年後半にはPGの人工的な全合成が確立した。これら一連の研究成果が,脂質メディエーターの研究を進展させる契機になったと考えられる。種々の刺激によって活性化されたホスホリパーゼ(phospholipase;PL)A2により生体膜のリン脂質より遊離されたAAは,シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase;COX)によってPGH2へと変換され,このPGH2を基質としてそれぞれの合成酵素により最終産物であるPGE2,PGF,PGD2,PGI2,およびトロンボキサン(thromboxane;TX)A2が合成される。抗炎症薬であるアスピリンは,COXの不可逆的アセチル化によりCOX代謝産物の合成を完全に抑制することによってPG,TXの産生を阻害し,鎮痛,解熱,血小板凝集抑制作用などを示すことが,1971年にVaneによって明らかにされた。
 COXはPG/TX産生の要となる酵素であるが,1990年前後に,種々の外的刺激によって新規に誘導される分子であるTIS10(第1染色体q25)がCOXの機能をもつことが偶然発見され,COX-2と命名された。このCOX-2は,サイトカインやその他多くの内外からのシグナルに迅速に反応して酵素を誘導し,その場所や状況に対応したPG,TXを合成するという重要な調節作用を有することが判明した3)4)。それにより従来のCOXはCOX-1(第9染色体q32~q33)と命名され,組織・臓器に常時発現する構成酵素であり,基本的な生理機能の調節に関与していることが明らかとなった。
 PG,TXの合成には,COXにより合成されたPGH2がそれぞれの合成酵素により最終産物に変換される必要がある。産生は,最終合成酵素の組織や臓器への分布の差異(たとえば,血小板ではTXA2合成酵素,血管内皮ではPGI2合成酵素が主に存在する)によって調節されていると考えられていたが,それのみならず,COX-2誘導によるダイナミックな調節機構の存在が明確になった。最終段階の合成酵素についてもアイソザイムの存在が明らかになっている。たとえば,PGE2合成酵素では3つのアイソザイム,microsomal PGE2 synthase-1(mPGES-1),mPGES-2およびcytosolic PGE2 synthase(cPGES)の存在が知られており,mPGES-1は誘導酵素,mPGES-2は構成酵素であると考えられている。COX-2は,mPGES-1と連動してPGE2を産生する5)。
 COX代謝産物は,G蛋白依存型受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)を介してシグナルを細胞内に伝達することが知られている。たとえば,PGE2では4種の受容体(EP1,EP2,EP3,EP4)が存在し,どの受容体を介してシグナルが伝わるかによって生理活性が異なる。PGD2は,DP1,DP2受容体を介して異なった生理活性を発揮する。上記のごとく,COX代謝産物は複数の調節機構をもってその作用を発揮し,微妙な生体の調節を行っていると考えられている6)7)。

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