特集 高齢妊娠・出産の現状と課題
不妊治療
Pharma Medica Vol.38 No.6, 47-50, 2020
近年の初婚および初産年齢の上昇により,わが国の不妊症カップルの数は増加した。生殖医療は急速に発展しているものの,いまだ女性の加齢に伴う妊孕性低下に対する改善方法はない。そのため,現在の臨床において最も高度な不妊治療である生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)も,高齢女性がその妊孕力を最大限活かすことを目的として実施されることが多い。そのため,わが国のART患者は世界的にみて著しく高齢である。
不妊治療後の妊娠予後を考える際には,この妊娠が不妊治療と,不妊症の背景にある病態の双方の影響を受けることに留意すべきである。前述のとおり,わが国のART患者は高齢であることが多く,妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群の危険性が高い。また,子宮筋腫や子宮内膜症など不妊症の原因となる基礎疾患も,高齢女性では若年女性より病状が進行している。このような背景を加味したうえで,不妊治療における個々の操作がどのように妊娠,分娩,また新生児に影響を及ぼすかを明らかにする必要がある。これまでは不妊治療が出生児に及ぼす影響が注目されることが多かったが,近年ARTの妊娠成績が向上するに伴い母体の周産期予後についても関心が向けられるようになってきた。
本稿では,不妊治療およびわが国で行われているARTの現状を概説した後に,近年明らかになりつつある生殖医療と周産期予後について最新の知見を解説する。また,ARTを取り巻く周辺の社会状況や第三者を介する生殖医療についても紹介する。
「KEY WORDS」不妊,生殖補助医療,周産期予後
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