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野巫医のたわごと

(174)ありがとうとすみません

前田貞亮

Pharma Medica Vol.32 No.11, 74-75, 2014

“先生!むくみがすっかり無くなりました。この通り歩くのも楽です。お陰様で。有難うございます。”という老婦人。東京の下町にあった父の診療所で,旅行中の父の代診をしていた時のこと。全身の浮腫と呼吸苦で来院した,多分,僧帽弁閉鎖不全症(所謂,心臓弁膜症の一つ)の患者さんに,水銀利尿薬を注射した翌々日のことであった。「先ずはよかったね」と答えたが,父の面目を潰さなかったな,と大学医局の若い医師としてはホッとした気持ちであった。今さらながらではあるが,“医師になってよかったな”と思うことは,診療した患者さんから「有難うございました」と,感謝された時である。この様に全身の浮腫(むくみ)と息苦しさで外来受診,あるいは入院して利尿薬や狭心薬を投与したり,胸腔に溜まった胸水や腹腔に溜まった腹水を穿刺針という針で除いてあげたり,更には腹膜透析,血液透析の治療を行ったりした後の,症状が軽くなった患者さんの明るい顔と「先生!ありがとうございました」という感謝の声を聞くときが,医師ならではの喜びと責任の重さを同時に感じる一時である。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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