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血小板をめぐる最近の話題

(臨床編)血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の最近の話題

Recent topics on thrombotic thrombocytopenic purpura(TTP).

松本雅則

Pharma Medica Vol.30 No.5, 43-47, 2012

はじめに
 血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura;TTP)は,無治療の場合は90%以上が死亡する予後不良な疾患であったが1),現在では新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma;FFP)を置換液とした血漿交換療法で致死率約20%にまで低下した2)3)。TTPはわが国での正確な症例数は把握されていないが,海外からは人口100万人あたり3.7人4)発症するまれな疾患として報告されている。しかし,TTPという病気自体の認識度が高まるに従って症例数が増えていることが報告されている1)5)。さらに最近では,von Willebrand因子(VWF)を切断する酵素ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloprotease with thrombospondin type 1 motifs-13)の登場により,TTPの注目度が増しており,TTPと診断される症例数は増えていることが予想される。TTPは,微小血管に血小板血栓が形成されることによって発症する疾患である。TTPの予後は改善したが,依然として致死率20%と死亡率が高く,またADAMTS13活性著減例の35%が再発すると報告されている6)。このように,TTPでは病初期の診断治療に加えて,難治例,再発例の診断治療が重要であり,ADAMTS13を中心とした病態解析の最近の知見について紹介する。

KEY WORDS
●血栓性血小板減少性紫斑病(TTP) ●ADAMTS13 ●von Willebrand因子 ●リツキシマブ

Ⅰ.TTPの診断

 TTPは,その症例数の少なさや特異的な診断指標がないことより,一般臨床医にとって最も診断が困難な疾患の1つといわれている。歴史的に重要な3つの診断基準を紹介し,それぞれの問題点を紹介するが,早期治療が予後を改善することから,わが国では十分普及していない2番目の診断基準が世界の標準的な診断基準である。

1.古典的5徴候

 TTPの最初の症例は1924年に米国のMoschcowitz7)によって報告されたが,1966年にAmorosiとUltman1)によって典型的な5徴候(古典的5徴候)が報告された。これは,1924年から1964年6月までに論文報告された271例のTTP症例を検討し,約90%以上の症例で認められる5徴候を集計したものである。古典的5徴候とは①血小板減少,②細血管障害性溶血性貧血,③腎機能障害,④発熱,⑤精神神経障害である。この5徴候は,病初期にはすべて認めないことがあり,特に③④⑤は終末臓器に血小板血栓が形成されることで認められると考えられ,5徴候が揃うのを待つことは治療開始が遅くなる可能性がある。しかし,この診断基準はTTPにかなり特異的な症状であり,現在もわが国の多くの臨床医はこの古典的5徴候を重視している。

2.主要2徴候(血小板減少と細血管障害性溶血性貧血)

 TTPの治療には血漿交換が有効であることが明らかとなるに従い,できるだけ早期にTTPと診断し,血漿交換を開始するほうが,予後がよいことが報告された8)。1991年にカナダのグループ2)によってTTP症例で血漿交換群とFFP投与群とを比較して,血漿交換群で明らかに予後がよいことが報告された。この歴史的な報告は,TTPにおいて血漿交換療法がfirst-lineの治療であることを確立するとともに,TTPの診断基準にも大きな影響を与えた。この研究2)では,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;DIC),子癇など他に原因となる疾患を除外して,血小板減少と溶血性貧血の2徴候のみをTTPの診断基準として使用した。
 この診断基準は非常に簡便で使いやすいが,問題点としてこの2徴候はTTPに特異的なものではなく,特に溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome;HUS)との鑑別が困難である。HUSは,TTPの古典的5徴候①,②に腎不全を加えたGasserの3徴候で診断される9)。HUSのうち,約90%はO157:H7などの腸管出血性大腸菌感染症に伴う下痢関連の症例であり,診断は容易である。しかし,残りの10%は下痢を伴っておらず,2徴候で診断した場合にTTPとの鑑別が困難である。この場合,TTPとHUSを包括した病理学的診断名である血栓性微小血管障害症(Thrombotic microangiopathy;TMA)が使用されることがある。

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