血小板をめぐる最近の話題
(臨床編)特発性血小板減少性紫斑病(ITP)における新規治療薬
New therapeutic options for immune thrombocytopenia.
Pharma Medica Vol.30 No.5, 37-42, 2012
はじめに
特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)は,血小板数が10万/μL以下に減少する自己免疫疾患である。国内では特定疾患治療研究事業の対象疾患(56疾患)に指定されており,医療費の一部は公的負担される。国内の患者数は,約2万人である1)。標準的治療であるヘリコバクター・ピロリ除菌療法,副腎皮質ステロイド療法,脾臓摘出術(脾摘)を行っても,血小板数が3万/μL以下の難治例が存在し,その割合は全体の約10%に相当する。血小板数が3万/μL以下のITP患者の死亡リスクは,健常人よりも約4倍高いことから,治療が必要となる2)。これまで難治例に対する治療法として,免疫抑制薬,蛋白同化ステロイド,抗癌剤などが経験的に用いられてきたが,治療効果が限定的であること,副作用も多く,健康保険の適応外使用にあたることから,治療に苦労することが多かった。近年,難治性ITPに対する画期的な治療法として,巨核球造血を促進し,血小板数を増加させるトロンボポエチン(TPO)受容体作動薬(ロミプロスチム,エルトロンボパグ)が国内でも承認された3)。この新薬は,難治例の約80%に有効性を示すことから,ITP診療を大きく変えた。なお,国内では悪性リンパ腫の治療薬として承認されている抗体医薬リツキシマブは,欧米では脾摘に代わるITP治療法として広く使われている4)。TPO受容体作動薬とリツキシマブが広く使われるようになり,米国血液学会は15年ぶりにITP診療ガイドラインを改訂した5)。2012年4月,国内の班会議が作成した「ITP治療の参照ガイド2012」も公表された6)。本稿では,新しいガイドライン,新薬TPO受容体作動薬とリツキシマブの医師主導治験(厚生労働科学研究)について解説する。
KEY WORDS
●特発性血小板減少性紫斑病(ITP) ●トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬 ●リツキシマブ
Ⅰ.新しい治療ガイドライン
TPO受容体作動薬とリツキシマブの登場により,米国血液学会と国内班会議が,ITP治療ガイドラインを改訂した5)6)。米国血液学会は,科学的根拠の高い治療法のみを採用し,経験的に用いられてきたエビデンスレベルの低い治療薬を今回の改訂版から外し,GRADEシステムに基づく推奨度を明記した5)。一方,班会議が作成したITP治療の参照ガイドは,従来から使われてきた免疫抑制薬,蛋白同化ステロイドなどの治療法についても,言及しているのが特徴である6)。
1.米国血液学会によるITP診療ガイドライン2011(図1) 5)
新しい診療ガイドラインにおいて,新規に診断された成人ITPの治療開始基準が,血小板数3万/μL未満(グレード2C)とされた5)。
慢性ITPに対する第一選択治療は,副腎皮質ステロイド療法である(図1) 5)。1日量1mg/kgで開始し,2~4週間投与して血小板数が増加したら減量を行う。治療効果は,80%に期待できるが,ステロイド特有の副作用を避けるため,血小板数が増加したのち,可能な限り減量または中止する。より早期に血小板数を上げる必要がある場合は,副腎皮質ステロイドに免疫グロブリン大量療法を併用してもよい(グレード2B)。
初回の副腎皮質ステロイド療法が無効・忍容性に問題がある場合,または再発例に対しては,セカンドライン治療を選択する(図1) 5)。セカンドライン治療として,脾摘,TPO受容体作動薬,リツキシマブが採用されている5)。脾摘は歴史的に有効性と安全性が高く評価されている治療法である。なお,TPO受容体作動薬は,ITPの治療法としてははじめてプラセボ対照無作為化比較試験で,高い有効性と安全性が確認された治療薬である2)3)。
副腎皮質ステロイドが無効な患者には,脾摘が推奨される(グレード1B) 5)。脾摘は約70%の患者に根治を期待できる唯一の治療法である。
TPO受容体作動薬(ロミプロスチム,エルトロンボパグ)は,脾摘が無効もしくは手術適応がなく,出血リスクがある場合に推奨される(グレード1B) 5)。なお,脾摘が未施行でも,前治療が無効で出血リスクがあれば,TPO受容体作動薬の投与を考慮する(グレード2C) 5)。欧州では脾摘が無効な難治例にTPO受容体作動薬を投与する傾向が強いが,米国では脾摘を回避,またはステロイドの減量・中止を目標にして処方されることも多い。
抗ヒトCD20キメラ抗体リツキシマブは,前治療が無効で出血のリスクがあれば,投与を考慮する(グレード2C) 5)。リツキシマブの有効性については,後述する。
従来から用いられていた免疫抑制薬(アザチオプリン,シクロスポリン),蛋白同化ステロイド(ダナゾール),抗癌剤(シクロホスファミド,ビンカアルカロイド)については,科学的根拠が高い臨床データが少なく,新しいガイドラインには採用されていない5)。
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