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肥満をめぐる最近の話題

メタボリックサージャリーへ進む外科,肥満症の外科治療を中心とした診療体制の取り組み,世界的展開と日本の取り組み

佐々木巖

Pharma Medica Vol.30 No.1, 33-36, 2012

はじめに
 今,わが国では高度肥満に対する外科治療がようやく産声を上げた状況と考えられる。すでに米国では,現時点で肥満外科手術件数が胆囊摘出術と肩を並べるほどに急増している。さらに,2型糖尿病に対しては内科的治療でcare中心であったものが外科手術においてcureを得る効果が認められ,減量を目的とした肥満手術の他にメタボリック手術としての有用性が注目され,検証が進められている。わが国でも減量手術以外の代謝改善効果を期待するメタボリック手術に対する関心が高まっており,今後の発展が望まれるなかでさまざまな体制の整備などが急務とされている。

KEY WORDS
●bariatric surgery ●metabolic surgery ●BMI ●2型糖尿病

Ⅰ.bariatiric surgeryからmetabolic surgeryへの展開

 高度肥満に対する外科治療は1960年代に米国のBuchwaldにより開始され,その後いくつかの手術術式が生み出されてきた。手術術式はこれまで時代とともに多くの変遷を経てきているが,①食事摂食量を制限する術式,②消化吸収障害を伴う術式,③これらの混合術式,の3つに大別される。減量効果としては混合術式が短期および長期的成績から優れている。これらは脂肪摘出などの美容手術とは本質的に異なるもので,区別されるものであることはいうまでもない。
 歴史的に開腹手術による肥満外科が行われてきたが,近年になって腹腔鏡手術が肥満手術においても多く取り入れられた。手術成績が良好なことが認識されるにつれて,現在では85~90%の症例に対して腹腔鏡手術が行われている。高度肥満に対する保存的治療に比べて,外科治療は確実に減量が得られて効果が長期にわたり持続することが確認されている。内科的治療では一時的に減量効果が得られても長期的にはリバウンドをきたす頻度が高く,確実な減量効果は肥満手術が最も信頼される治療法として周知されている。1991年NIHは高度肥満症に対する外科治療の有用性を認め,コンセンサスmeetingを開催して,BMI>40kg/㎡,またはBMI>35kg/㎡で肥満関連の合併症を有する場合を示してその適応を示すに至った。
 2010年WHOは世界の肥満人口の急増に対策が必要との勧告を発表した。特に米国を中心に欧米では30年前頃より肥満人口が急増し,それに伴う手術件数も飛躍的に増加傾向を示し,2009年の報告では全世界で30万例を超える肥満外科治療が行われるに至っている。
 一方,胃癌や消化性潰瘍に対する胃外科において,原疾患に対する根治性の達成の他にいずれの術式においても術後は約10%前後の体重減少が認められ,なかには脂質代謝の改善や糖代謝の改善などが認められる症例が散見され少数の報告がなされている1)。肥満外科手術ではほとんどの術式において,胃に手術操作が加わることになるため,減量効果とともに代謝系の改善効果も予測されるところであるが,高度肥満に対する手術症例の増加とともに,これらの症例では著明な代謝改善効果が得られることが明らかになってきた。1992年と1995年にPoriesらは,2型糖尿病の治療として胃バンディング肥満手術よりも長期間優れた効果を示す治療法はないとして,その疾患概念にも踏み込む衝撃的論文をAnnSurgery誌に発表し,少なくとも術後病態生理や糖尿病専門科に大きなインパクトを与えることになった2)3)。その後,高度肥満者における肥満手術が単なる減量効果の他に代謝系の障害を長期にわたり改善する効果が次々と報告されており,その効果は確実なものとして世界的に認識されることになった。
 2007年RubinoはInternational Anti-Diabetic Surgery Summitをローマで開催し,外科,内科,基礎医学者などによる研究発表と手術適応についてコンセンサス形成を諮り慎重な議論が交わされたが,このときは最終的なコンセンサスは得られずに終了した。その後,肥満外科による代謝障害改善についての報告が相次ぎ,またその病態について基礎的研究も進められ,2009年にニューヨークにおいてInterventional Therapy for type 2 DMのシンポジウムが開催されて,ローマの時より世界中から多くの研究者や臨床医が集まって検討されている。その後,2010年に米国糖尿病学会では,肥満を伴う2型糖尿病に対して外科治療を治療選択枝の1つに入れることをHP上でステートメントとして公表することになった。しかし,このステートメントで述べられているように,代謝改善治療としての外科治療の歴史はまだ浅く,十分なエビデンスが得られていない現状でもあり,その適応については慎重に今後の観察と検討が必要との指摘がある。一方,糖尿病に関しては欧米人に比べてアジア人ではBMIが低くても罹患率が高く,欧米人とは異なる病態が存在することが知られており,メタボリック手術の適応について欧米よりも適応基準を低く考えるべきとする意見が多い。2010年わが国において国際肥満外科連盟アジア太平洋部会:International Federation of Surgery for Obesity-Asian Pacific Consensus(IFSO-APC)が開催された折に,アジア人2型糖尿病に対する手術適応についての検討が行われ,近くその内容が論文として公表されることになった。さらに,2011年3月にニューヨークにおいて第2回Interventional Therapy for type 2 DMのシンポジウムが開催され,3日間にわたる研究発表が行われた。アジア人に対する手術適応の基準が欧米と異なることなども示され,全体としてのコンセンサスmeetingが開催された。
 わが国における肥満外科症例数は欧米に比べて極端に少ないが,近年急増する傾向にある。わが国だけのエビデンスを待ってからの対応と,現時点で対応すべきことを意識したうえで体制作りを進めることが肝要である。日本肥満症治療学会の最近の集計では,わが国において毎年約100例の肥満外科治療を受ける患者がいるが,肥満外科治療に対する社会的認知度が低く,3~5万人とも推定される患者が安全で質の高い外科治療を受けることができる環境整備が求められる。

Ⅱ.肥満症の外科治療を中心とした診療体制の取り組み

 わが国における肥満外科は,千葉大学の川村らにより1982年に胃バイパス手術が開始され,1986年には重症肥満の外科手術として高度先進医療として認められて,1988年には胃縮小手術が肥満手術の術式として保険適応がなされている。術式の変遷を現在まで辿ると,開腹手術で行われていた手術は,最近になり腹腔鏡手術が導入され,手術術式も胃バイパス手術が行われるようになった。一方,胃バイパス手術においては噴門直下で離断され空置される残胃における胃癌発生リスクの問題が懸念され,胃バンディングや胃バルーン法などが一部で行われてきている。また,ごく最近になり国際的にsleeve gastrectomy(袖状胃切除術)の効果が評価され普及するにつれて,わが国でも特にsleeve gastrectomyを行う施設が増えて,2009年に日本肥満症治療学会が行った全国集計では,最近の1年間では80%の症例においてsleeve gastrectomyが行われている。また,わが国の現状としてsleeve gastrectomyについては,現在先進医療として厚生労働省が認め,数ヵ所の施設で申請承認されて外科治療が行われている。
 わが国の肥満外科の現状についてみると,前述の集計では2009年の段階で毎年100例前後の手術が行われており,川村らの第1例目の手術症例から累積で約500例の手術が行われてきた。今後,さらに高度肥満症例が増加すると予測されるなかで,外科治療について体制の整備が望まれる。特にこれらの肥満外科手術やメタボリック手術が普及して多くの患者のQOL向上に貢献するためには,今後の保険適応獲得に向けての動向が重要である。
 日本肥満症治療学会では,これらの状況を把握して2010年に「日本における高度肥満症に対する安全で卓越した外科治療のためのステートメント2010」としてわが国における肥満外科とメタボリック手術に関しての安全で質の高い外科治療を行うための指針を発表している。その内容は,全体のコンセプトを述べた前文と具体的な項目ごとに指針を示したものとにより構成されている。前文の内容としては,「ステートメント2010」は,肥満外科領域での先進国である欧米の基準があり,わが国の現状にあわせて今後内容を改変していくこと,肥満症治療の特異性から外科医以外の医療者との協働が不可欠であること,減量だけでなく肥満に伴う重篤な併存疾患の治療が主目的となることへの認識の重要性,などが記載されている。具体的な項目における指針の概要を表に示す。

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